製品拡張の4段階
差別化は、顧客期待に応えようとすることから始まる

「製品はほぼ例外なく、有形財と無形財が組み合わさってできている。潜在的な買い手は、さまざまな価値が複雑に絡み合いながら満足をもたらしてくれるものを、全体として『製品』と見なしている。『製品』とは、購入者が受け取るベネフィット(便益)全体を指すのである」
Products are almost always combinations of the tangible and the intangible. To the potential buyer, a product is a complex cluster of value satisfactions. "The 'product'……is the total package of benefits the customer receives when he or she buys……

 

  レビットは、価格競争を勝ち抜く差別化の方策を考えるためにまず、「製品とは何か」という問いから始める。製品はほぼ例外なく有形財と無形財が組み合わされたものであり、これらの要素が製品そのものと分かちがたく結びついて買い手の意思決定を左右し、製品の差別化へとつながっていく。それをさらに突き詰めれば、さまざまな価値が複雑に絡み合いながら提供されるベネフィットこそが「製品」であると規定する。 

 そのうえで製品を4つの属性の層(拡張)ととらえ、個別に言及する。この製品の属性の層の広がりが、冒頭に紹介した製品概念論の拡張へとつながるのである。

 レビットが用意した「製品全体の概念図」を見てみよう。

 4つの属性の層とは、中心部から「一般的な製品」「期待される製品」「拡張的な製品」「潜在的な製品」へと拡張している。層がバウムクーヘンのように単純に多層化しているのではなく、まるでギアのように絡み合いながら拡張している点がポイントだ。

 ちなみに、コトラーが提示している製品概念図も掲載しておく。コトラーでは3層だが、ここでも円錐状の拡張となっている点に注目してほしい。

「一般的な製品」とは、レビットによれば「実態を持つが付加価値は乏しく、市場に参入するための前提条件」となるようなものである。それがなければゲームに参戦できないポーカーの掛け金のようなものだ、とも言っている。

 レビットは、論を展開するためにいくつかの事例を提示しているが、ここでは鉄鋼メーカーから自動車メーカーに供給される鋼板を例に話を進めよう。鉄鋼メーカーにとり鋼板は、それ自体はまだ付加価値が乏しい一般的な製品である。

「期待される製品」とは、顧客が購入する際に求める最低限の条件である。鋼板では、<1>配送(納期の厳守と在庫コスト削減への寄与)、<2>取引条件(取引価格や決済条件など)、<3>支援サービス(製品の活用法についてのアドバイスや支援)、<4>新しいアイデア(鋼板を他に応用できないかについてのアイデアや提案)、の4つある。

 いずれも常識的なものに思えるかもしれないが、鋼板の4項目を見ただけで、すでに他者との差別化に重要なポイントになり得る要素がたくさんあることがわかる。

「一般的な製品を販売するには、顧客のさまざまな期待に応える必要があり、そのためには多彩な方法がありうるだろう。つまるところ差別化とは、顧客の期待に応えようとするところから出発するのである」