差別化戦略を本格化させるタイミング
製品概念の3つ目は、「拡張的な製品」である。これは顧客が想像したこともなく、期待や要求以上の特性を備えた製品と定義される。単に期待に応えるだけでなく、「ここまでやってくれるのか。想像以上だ。それならば金を払ってもよい」という段階にまでなっている製品だ。鋼板の例では、より細かな配送計画の提案や、より魅力的な取引条件の提案、よりコスト軽減につながる管理手法の提案などが考えられる。
しかし、拡張的な製品の提供にまで至ると顧客は徐々に知識を身につけ、仕入れ先に頼らなくても済むようになってくる。そして別の何か、つまり価格競争を誘発するような仕入れ先の変更などを仕掛けてくる。そのために拡張的な製品の段階では、体系的な付加価値プランを導入する意義が生まれ、併せてコストと価格を下げることにも力を注がなければならない。これは製品の成熟化に伴うパラドックスである。
そこで、「つまり」と続けてレビットが語ったのが上の言葉である。拡張的な製品段階への取り組み、つまり差別化への施策は、価格競争が熾烈になり、コスト低減の重要性が高まってきたタイミングで投入されるべきであり、顧客をつかまえておく力となると言うのである。
そして、顧客を引きつけ、つなぎ止めるためにできそうなことのすべてを「潜在的な製品」と定義する。鋼板の例では、技術面での改善策を示したり、鋼板の代替物(プラスチック、アルミなど)についての調査結果を提供したり、自動車の生産手法そのものの改革にまで踏み込んだ提案をするなどである。
潜在的な製品にまで拡張できるかどうかを決めるのは予算と想像力である。経済状況や競争状況も無視できない。とはいえ、レビットが製品概念を考えた結果として述べる次の一節は、差別化の可能性に対する大いなる激励だ。
「『製品とは何か』という問いの答えは、経済状況、事業戦略、顧客の望み、競争条件など、数多くの条件によって決まる。本稿では製品を4とおりの方法で定義したが、それぞれの範囲も常に一定とは限らない。ある顧客にとっての『拡張的な製品』が、別の顧客にとっては『期待される製品』であるかもしれない。ある状況の下で、『拡張的な製品』であっても、他の状況では『潜在的な製品』と位置づけられることもあるだろう。さらには、品薄の時期には『一般的な製品』だったものが、供給過剰の時期には『期待される製品』に転じることも考えられる。
教科書ではまことしやかに、すべてが完結で一定であるかのように論じられているが、現実のビジネスではそのような事例は実に稀である。ただし、1つだけ確実に言えるのは、すべては差別化が可能だということである。少なくとも競争という観点からは、差別化できない製品などない」