2015年9月25日、国連総会で「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択された。そこで示された取り組み目標は、今後、世界各国の開発政策の基本的な指針となる。同時にSDGsは、これからの国際社会のルールの基本となるものであり、グローバル展開を目指す日本企業にとっても無視できないものだ。それにもかかわらずSDGsについての日本企業の理解と取り組みはお寒い限りである。SDGsによってビジネスチャンスが創出され、そこには日本企業が貢献できる分野が多いことにも注目しなければならない。
まずはSDGsが何なのかを感覚的に知ろう
賢明な読者の多くは「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉をお聞きになったことがあるだろう。でもそれが何かを自分の言葉で説明できるだろうか ―― 感覚的に理解できていないと、それは難しいだろう。
とても大事なことなのに、説明がとても難しい ―― まさしくSDGsがそれだ。そこで、まず私自身がみなさんが理解できるような説明に努めることから始めたい。
21世紀を前にした2000年、「地球家」はすでに189人の大兄弟姉妹だった。大学院まで行って高給を取り、電気やガソリンを湯水のように使い、世界の食材を好きなだけ食べ散らかし、太って常に健康診断が必要になった姉と兄たち(先進国)がいる一方で、学校にも行けず、移動は徒歩しかなく、ご飯も食べられず、病気にかかっても医者にも行けない妹と弟たち(開発途上国)がいた。兄弟姉妹は家族会議で妹・弟の生活をよくしようと決め、そのために姉・兄が応分の負担をすることとした。
その取り決めは、「ミレニアム開発目標(MDGs)」と名づけられた。開発とは、土木的な意味の開発ではなく、よりよい環境や社会を創造し、「人間らしい」人生が送れるようにするという意味である。MDGsは「極度の貧困と飢餓の撲滅」「初等教育の完全普及の達成」など8つの目標を掲げ、具体的な21の目標と60の指標を設定した。目標達成期限は2015年までの15年間に決めた。
MDGsにより地球家には大きな変化が生まれてきた。妹・弟たちの中で小学校に通えない割合は8%減り、1日1.25ドル(約150円)以下で暮らす「極度の貧困」に陥っている割合も3分の1以下に減った。きれいな水を飲める割合も76%から91%に増えた。特に衛生環境の悪さなどにより5歳以下で亡くなる子どもの割合も半減した(*)。
まだ達成目標にほど遠い課題もあるが、MDGsは地球家の兄弟姉妹の努力により一定の成果を上げることができたといえる。
ところが15年の間に予期しない事態も起きていた。だれもが豊かで健康的と思われていた姉や兄たちの中にも、すでにかなり高齢で高い医療費が必要な者などが出てきて、苦しむ妹や弟たちがいるのに、エアコンもクルマも使い放題、肥満を気にせず、食べ物の半分を捨てている。そういうわがままな振る舞いが「地球家」そのものの存続を危うくしてしまった。
弟・妹たちにもまだまだ課題は残っている。いまなお「極度の貧困」にあえぎ、小学校にも通えない子どもがいる。適切な医療を受けることもできず、男性と女性の格差も大きい。
「これはいかん」と兄弟姉妹は再び家族会議を開き、新たな目標を決めた。「持続可能な開発目標(SDGs)」だ。言わばMDGsの後継目標だが、MDGsとの大きな違いは、「弟や妹を助けるだけでなく、兄や姉も、家族全員が変わるための目標を掲げ努力しよう」と宣言したことだ。SDGsでは「貧困撲滅や資源保護」「貧富の格差の是正」「子どもへの暴力の撲滅」「気候変動への対応」など17分野で169の目標が明記された。
とまあ、国家を人に例えるならばSDGsとはこういうことである。重要なことは、今回の開発目標が「家族全体の未来」を実現するための努力目標だという点。そして兄弟姉妹全員が曲がりなりにも合意した、という点も今後の国際社会のあり方に大きく影響を与える。何よりこれは、ビジネスにも大いに関わりのある話である。