ルールはニューヨークでつくられる
欧米の企業は、SDGsを巨大なビジネスチャンスの到来だと認識している。日本ではあまり知られていないが、欧米の大企業は、SDGsの策定につながったワーキンググループの活動に積極的に関わってきた。なぜなら、議論を通じて事業機会を探れ、同時にSDGsが今後15年間の事業展開における国際ルールになることを理解していたからだ。
例えば、SDGs「目標7 すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」では、「2030年までに世界のエネルギー・ミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる」「2030年までに、世界全体のエネルギー効率の改善率を倍増させる」と明記している。
これらの目標だけでも、大きなビジネスが創出されることがわかる。
一方で、「目標8 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用を促進する」では、「2030年までに、世界の消費と生産における資源効率を斬新的に改善させ、先進国主導の下、持続可能な消費と生産に関する10カ年計画枠組みに従い、経済成長と環境悪化の分断を図る」と明記されている。
これなどは、今後の企業の事業展開における新たなルールになるものだ。
しかし日本企業のSDGsへの関心は極めて低い。SDGsの動きをウォッチしてきた企業でも、国際的なルールづくりに関与した例は少ない。むしろ、決められた国際ルールに従うことが“伝統的な対応”になってしまっている。
事業がどんどんグローバル化している中で、SDGsの目標や基準内容を知らないことは、企業統治の側面からも大きなリスクになる。また、企業はCSRにおいて統合報告書基準による情報開示が求められる一方、投資家からはESG投資(環境、社会、企業統治に配慮している企業への投資)や、機関投資家の意思決定プロセスにESGの視点を組み入れたPRI(責任投資原則)などの広がりによる選別など、社会的責任を求める強い圧力にさらされている。
ここで消極的な姿勢を取るのは戦略的な対応とはいえない。むしろ、SDGsへの取り組みは、企業にとっては「must」であり、その先の大きな「opportunity」であると強調したい。
企業が責任ある創造的なリーダーシップを発揮して持続可能な成長を可能にしようという「国連グローバル・コンパクト」には現在、世界中で8000社の企業が参加している。うち日本では207の企業と団体が参加する。ニューヨークのグローバル・コンパクト事務局が全体の流れを仕切っている。
参加企業の中で、より積極的に理念の実現に努めている「リード企業認定」47社のうち、日本企業は住友化学、富士ゼロックス、武田薬品の3社しかない。リード企業同士では、すでにSDGsのさらに先を見るような多彩な議論が展開されている。いわば世界的な“規範の創造地”での議論に積極的に参画することで、グローバル展開に伴う経営体制の見直しができるようになる。にもかかわらず、日本企業の関心は極めて薄いままなのだ。