マーケティングの本質的な課題(命題)を知っていれば、どのような領域、分野においてもマーケティングの本質は変わらない。それを見事に示してくれているのが、今回取り上げる「無形性のマーケティング」である。

有形財・無形財に共通する「無形性」という要素

「サービスを売るのか、製品を売るのかによって企業を分類しても、それほど経営の役には立たない。あえて分類するならば、表現を変えたほうが有意義である。『サービス』と『製品』と言う代わりに『無形財(intangibles)』と『有形財(tangibles)』と呼んだほうがよい。工場でつくられるものが何であれ、市場では例外なく製品の『無形性』が売買されているからである」
Distinguishing between companies according to whether they market services or goods has only limited utility. A more useful way to make the same distinction is to change the words we use. Instead of speaking of services and goods, we should speak of intangibles and tangibles. Everybody sells intangibles in the marketplace, no matter what is produced in the factory.

Marketing Intangible Products and Product Intangibles, HBR, May-June 1981.
「無形性のマーケティング」DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2001年11月号
『T.レビット マーケティング論』(ダイヤモンド社)第14章


「無形性のマーケティング」は、このような書き出しで始まる。いわゆるサービス業によって提供される無形財には、さまざまな種類がある。旅行、保険、貨物輸送、投資仲介、教育、ヘルス・ケア等々だ。一方、有形財とは、自動車やビールやテレビのように形ある製品であり、触れ、見て、嗅げ、味わえたりする。

 無形財と有形財の違いと共通性の両方を考察することで、レビットはマーケティングの本質的な命題を提起している。つまりサービスと製品(無形財と有形財)に分類するのではなく、両者には「無形性」という共通の要素があり、その理解と取り組みこそがマーケティングの最大の任務であると教えてくれているのである。

 まず、この論文を読み進むための基礎的な知識として、コトラーが「サービスの本質と特性」で示したサービスの4つの特性を知っておこう。これが頭にあると、レビットの議論がグンとわかりやすくなる。

 コトラーは、サービスを「一方が他社に対して与える、本質的に無形の活動またはベネフィット」と定義した上で、マーケティング・プログラムを設計する際には、4つのサービスの特性を考慮しなければならないという。つまり、「無形性」「不可分性」「変動性」「消滅性」である。

 無形性とは、形がないので購入する前にサービスを見たり味わったりできないこと。航空機による旅を購入するとき、乗客が手にするのはチケットと、「無事に目的にお届けします」という約束だけである。

 不可分性とは、サービスの販売と消費が同時に行われ、サービスの提供者とサービスを受ける者が接点を持たなければならないこと。航空機には乗らないと、歯の治療では病院に行かないと、それぞれのサービスは受けられない。

 変動性とは、誰が、いつ、どこで、どのように提供するかによってサービスの質が変化すること。つまりサービス提供者によって品質にバラツキが出やすい。失恋して不機嫌きわまりないキャビン・アテンダントが担当になれば、楽しいはずのフライトも台無しになりかねない。

 消滅性とは、後の販売や使用のためにサービスを保存しておけないこと。搭乗予定のフライトに乗り遅れればサービスは受けられないし、ホテルの空室は予約が入らなければ翌日にその空室を回すことができない。

 レビットは、これら4つの特性すべてを括る大きな概念を「無形性」と表現し、<1>無形財と有形財のマーケティングにどのような無形性が重要になるのか、<2>無形財の売り手が顧客維持のために直面する問題、の2つについて探っている。