「有形財は無形財化、無形財は有形財化」
という本質的な提示

「ディーラーもメーカーも、有形財である自動車そのものを売っているのではない。売っているのは、たくさんのベネフィットをパッケージとした無形財なのである。顧客を獲得するうえで有形財の訴求力を高めるには、それを『無形財化』しなければならない。そして無形財は『有形財化』されなければならない」
Neither the dealers not the manufacturers sell the tangible cars themselves. Rather, they sell the intangible benefits that are bundled into the entire package. If tangible products must be intangiblelized to add customer-getting appeal, then intangible products must be tangible.

 

 本論文の最終章「無形財を有形にする方法」でレビットは、実に示唆に富む指摘をしている。それが上の言葉である。言い換えれば、有形財はしっかりと無形性を備えていなければならないし、無形財はしっかりと有形性を備えていなければならないのである。

 レビットは、なぜホテルの飲み物用グラスは真新しいフィルムで包まれ、トイレのシートには消毒済みの紙テープが巻かれ、トイレ用ティッシュは使い古しでないことを示すために三角形にして外に出されているのか、と問いかける。それらは無言ながら、心地よくお使いいただくように念を入れて清掃されている、とアピールしている。心遣いによって約束を有形化しているだけでなく、サービスデリバリーの効率化も図っているものだという。

 もう一度振り返れば、無形性の「約束」を比喩やパッケージなどで見える化し、無形財においては客がサービスを忘れないように刺激する努力を続け、それを継続できるように効率化の仕組みを考える。こうした入念で継続的な配慮により、顧客とのリレーションシップがうまく維持される。この原則は、有形財も無形財も共通のものである。

 有形財と無形財に共通する無形性へ注目し、また無形財ならではの無形性などを考察した本論文は、マーケティングの本質的な課題を示してくれている。私たちはしばしば、個別領域や分野に特化したマーケティング論の議論を見たり聞いたりする。例えば、保険マーケティング、サービス・マーケティング、B2Bマーケティングなどである。

 しかし筆者(恩蔵)は、こうした個別対応的なマーケティング論には、本質的な意義や重要性はあまりないと考えている。もちろん、サービス業の多様化など産業シフトが起きている時に、そうした領域研究に注目して、個別対応的な研究が取り組まれるのは大きな意味がある。こうした筆者の考えは、おそらくレビットも同意してくれるはずである。有形財メーカーも無形財の提供者も、レビットが本論文で指摘した無形性という基本的な概念を理解していれば、自ずとさまざまな課題に対する結論を導き出せるからである。

 本論文を読むことの最大の意味とメリットは、マーケティングの本質的な命題を見事に私たちに気づかせてくれている点にあると思う。