有形財における無形性の決定力
レビットはまず、有形財でも無形財でも、無形性が顧客を獲得する決め手になっていることを検証している。特に有形財において、無形性が与える影響の大きさを力説する。
一般的に有形財の購入では、事前に製品特性や品質、仕様などを確認できる。だからといって購入前に試用し、触れたり操作してみただけで十分な確信を持って判断できるわけではない。イワシ缶詰や洗剤パックなどの安価な消費財も、たいていの場合は前もって試せない。消費者を納得させるためには、広告やラベル、中身の見える瓶詰めなど言葉や文字以外の「約束」を示して安心させなければならない。こうした単純な事実からも、有形財といえども無形性に大きく依拠していることがわかる。
「ソリューション・プロバイダー」「ソリューション・セールス」などの例を思い浮かべるとわかりやすいかもしれない。IBMの大型コンピューターを購入する顧客は、コンピューターという箱が欲しいのではない。それを使えばどんなビジネス課題を解決でき、効率性が向上するのか。さらにメンテナンスなども含めて、無形のソリューションへ期待しているのである。有形財であるコンピューターは、無形性と別々に売られている物ではないのだ。
「意味深長」と言っている点に留意してほしい。有形財のマーケティングにおいても無形性は重要な要素、テーマになると訴えているのである。
では、顧客への「約束」は、具体的にどのように示されるとよいのだろうか。レビットは「約束を有形化する」必要性を説き、まず、「比喩」が重要だと指摘する。ある保険会社は、「大きな岩」の写真を示して安心感を伝えている。有形財でも、パッケージを見ただけで商品の品質や性能について確信を抱かせる工夫をしている。
次に大事なのが「印象」だ。評判が高く、顧客からの信頼も強い資産運用会社であっても、赤ら顔の若い社員が1人でセールスに訪れれば、誰もが拍子抜けしてしまう。有形財でも事情は同じであり、100億円の設備を導入するプロジェクトを任されたセールス・エンジニアの力量や人柄も、やはり製品の一部であり「約束」なのである。
したがって、製品の約束がどのようにパッケージされているか(パンフレット、仕様書、設計図、進行表など)と、誰がどのような語り口で製品を売り込むのかは、共に製品の中心的な要素となり、顧客が最終的に買うか買わないかを決める際の判断材料になる。
製品には「物質としての存在」以上の要素が存在している。それをレビットは、次のような言葉で強調している。