無形財ならではの顧客維持の難しさ
無形財で顧客を開拓し、維持するには、有形財とは違った難しさがある。なぜならば無形財は生産と納入の方法が、極度に人間に依存しているからである。コトラーがいうサービス特性の1つ「変動性」である。
さらに無形財の場合、製造と納品とが区別できない場合が多い。
そこでレビットは、「サービスの工業化」(*)によって人的作業の割合を抑え、品質管理の平準化を図るよう提案している。実はサービスの工業化はかねてから主張していたもので、人間に依存する作業をハード・テクノロジー、ソフト・テクノロジー、あるいはこれらの混合した手法に置き換えるべきだという。
たとえば、電話交換は自動交換機への切り替えを進めた結果、待たずに済む正確な接続が実現して料金も安くなった。保険の外交員は、顧客の目の前で契約内容をタブレット端末に入力してみせることで、間違いなく手続きが完了したとアピールできる。さらにファストフード店のフライドポテトは、1人前ずつ小分けにされ、それを店内の深鍋で揚げる手順により、できたての美味しさを提供できるようになった。
無形財の提供で顧客を失わないために特に注意を払わなければならないのが、無形財ならではの特性だ。無形財の顧客は、「自分は良質なサービスを受けている」とほとんど意識しないからだ。
生命保険や傷病保険の契約内容を、毎日のように確認しながら暮らしている人などいないだろう。だがいったん事が起き、保険金の支払いが予想と違っていたりすると、「なぜ、この特約も勧めてくれていなかったのだ」と保険代理店に不満をぶつける。つまり不満が起こったときだけ、じっくりと考える。満足している限り、あえて話題に取り上げて話そうとはしないのである。
レビットは、「無形財において顧客を維持する際、顧客が日ごろ得てきているサービスを、一定期間ごとに思い起こさせ、知らせることが大切である。こうしておけば、たまたままずい事態になっても、決定的な不満に至らずに済む」とアドバイスしている。
私たちは、各種のセールスで、求愛活動(営業活動)中の熱心さと結婚後(契約後)の醒めた現実の差を、何度味わされてきたことだろうか。今日的な表現を用いるならば、「顧客リレーションシップ」の欠落である。
無形財の売り手は、定期的に顧客へニュースレターを送ったり、訪問を続けたりしながら、自社の存在とサービスの中身を再認識させる機会をつくり、「いつも自分の後ろにいて、変わらぬサービスを黙々と提供してくれているのだ」と思い出させなければならない。