「かりそめの恋」ではなく
「結婚」が必要とされている

「重要なのは、顧客を見つけてつなぎ止めておくよりも、むしろ望み通りの価値をもたらすことだろう。買い手の側でも売り手に対して、常に約束を守り、製品やサービスをたゆみなく提供してくれるよう期待している。『かりそめの恋』はもはや主流ではなく、『結婚』が必要とされているばかりか、実際的でもあるのだ」
It is not a matter of just getting and then holding on to customers. It is more a matter of giving the buyers what they want. Buyers want vendors who keep promises, who'll keep supplying and standing behind what they promised. The era of the one-night stand is gone. Marriage is both necessary and more convenient. Products are too complicated, repeat negotiations too much of a hassle and too costly.

 

 レビットはまず、結婚というメタファー(隠喩)を使い、マーケティングにおける「時間」という要素に注意を払うべきだと言う。ビジネスの需給関係をめぐる経済理論では一般的に、あたかも人間的な要素などいっさい介在せず、需要曲線と供給曲線の交点で取引が成立するかのように論じられている。そのために時間やリレーションシップという視点は、議論においてほとんど置き去りにされてきた。

 1980年代に入り、ビジネスは複雑で多様かつ長期的な様相を示し始めていた。たとえば、単に計算処理機としてコンピュータは売られているのではない。顧客の課題解決に資するソリューションの一環としてコンピュータは売られ、必然的に取引のスパンは長くなり、顧客との関係も深まる。とすれば、顧客との間にも従来にはなかった関係論が必要とされていた。

 つまり「かりそめの恋」で物を売ってさよならではなく、結婚のような深いリレーションシップが必要になってきたのである。売り手と買い手の相互依存関係が深まれば深まるほど、長期的なリレーションシップが大きな役割を果たすようになる。

 こうした変化を端的に示してくれるのが表1である。レビットがまとめたこの表は、的確に競争環境の変化を示している。

「グローバル化のなかで、システムの優位性が高まり、契約は包括的で長期的になる」

 繰り返すが、この論文が書かれたのは1983年である。レビットが、まるで予言者のごとく現在の状況を描き出しているのには驚くばかりだ。そして、レビットは次のように述べている。

「顧客は、製品ではなく『期待』を購入する。言い換えれば、『売り手から約束されたとおりの便益が得られるだろう』という期待を買うのである」

 ちなみに、この“期待製品”という考え方は、レビットの製品概念拡張論の流れから生まれてきているのは明らかだ。本連載のように、一人の研究者の論文を連続して読み進めると研究者の立ち位置が明瞭に見えてくる。連読の大いなる楽しみと有益性だ。