誰が、顧客との関係を見ているのか
レビットはさらに踏み込み、「リレーションシップは資産である」と主張している。
それをわかりやすく伝えるために、失敗例として北海油田開発を、また成功例としてジレット・ノースアメリカを挙げてみよう。
ノルウェーとイギリスの両政府が石油各社を惜しみなく支援したにもかかわらず、北海油田開発は両政府との関係を大切にしなかった。そのため開発が成功すると、両国政府は市価の90%超相当の課税をした。石油会社はキツネにつままれた気分だったが、レビットは、「驚くようなことではない」と断じる。石油会社がリレーションシップの深化を怠ったがために招いた結果である。
一方、ジレット・ノースアメリカは、主要な流通業者や小売店との関係強化を掲げ、特別イベントやスポーツ大会への招待などを通じて絆を深め、互いが期待する利益や果たすべき義務を確認し合っている。リレーションシップを深める法人担当のバイスプレジデント(CRO=Chief Relationship Officerとでも呼べばいいだろうか)まで配置してもいる。
「企業によっては、エンジニアリング、製造といった部門の従業員にも、顧客の購入部門と接するように求めている。製品への意見や、新製品のアイデアを聞き出すだけでなく、顧客を知り、その要望に応えることで、揺るぎないリレーションシップを築き、末永く育むためだ」
翻って日本企業はどうだろうか。ジレット・ノースアメリカのようなベンチマークとなりうる企業をすぐに思い浮かべることができない。
あるビール会社の営業から聞いた話だが、「飲食店向け営業には“3種の神器”がある」という。冷蔵庫、グラス、サーバーの3つで、他社製品から自社製品に切り替えてもらうために、それらを無料で提供する。「しかし、長年取引している飲食店の冷蔵庫が古くなったからといって、それを新しものに更新するのは難しい」そうだ。リレーションシップの発想とは逆である。
同様に、最近では、携帯電話の長期契約者ほど低廉な料金サービスを受けられないでいることが話題になったが、これもロイヤルティの高い顧客とのリレーションシップを大事にしていない例といえるだろう。
マーケティングの研究者は、「人、もの、金、情報、そしてブランドが企業の経営資源である」と説明するが、レビットの「リレーションシップも資産である」という指摘を加えてもいいだろう。そのうえで、具体的施策を考える時代になっていることを再確認する必要がある。