
熊本浩志氏 amadana株式会社 代表取締役社長 1975年生まれ。2002年に株式会社リアル・フリート(現amadana社)を設立する。カデンの枠を超え、数々の企業と協業。昨年8月にはユニバーサルミュージック社とAmadana Musicを立ち上げ、世界へ向けた新たな事業展開を加速させている。
熊本 デザインがもたらす価値が大きく変わっていることは確かです。モノを買うときに人が何をモチベーションにしているかというと、それは人からどう見られるかということです。スマートフォンやSNS(ソーシャルネットワークサービス)の普及が大きな転機になり、今はコミュニケーションがビジュアル化している。
ビジュアル化したコミュニケーションにおいて、大切なのはフォトジェニックであること。自撮りに慣れた若い人たちは、どう撮れば自分がもっともキレイに写るかをよく知っている。だから、フォトジェニックであることが大きな購買動機になるし、それを持っている自分が人からどう見られるのかが重要な判断基準になります。
その意味で、価値の基軸が顧客体験に移っているというのは、入山さんのおっしゃる通りだと思いますね。
なぜ若者は
レコード盤を買うのか

入山章栄氏 早稲田大学ビジネススクール准教授 1972年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、三菱総合研究所勤務などの後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院より博士号取得。ニューヨーク州立大学バッファロー校助教授を経て、13年より現職。現在は本誌にて「世界標準の経営理論」を長期連載中。
熊本 僕の会社では昨年、ユニバーサルミュージックとの共同プロジェクトとして新ブランド「Amadana Music」を立ち上げ、その第1弾としてアナログレコードプレーヤーを発売したのですが、これが生産が間に合わないほど売れている。
入山 「Apple Music」のようなデジタル配信が当たり前になり、音楽はどこからでもアクセスできる単なる情報の一つになってしまった。それなのにですか。
熊本 そうなんです。実は数年前からアメリカでも日本でもアナログレコードが空前の売れ行きとなっていて、音楽のデジタル配信サービスの普及とほぼ軌を一にしているのですが、これは決して偶然ではないと思います。スマホで音楽配信を聴いていても、本当に好きな音楽や思い出の曲は、聴いた体験と一緒にストックしておきたい。それにはモノが必要です。デジタル技術が進化しても、人の心は大きく変わらないのだと思います。