もちろん、2020年から2025年あたりを境にして、ボリュームゾーンの65歳到達が始まっていくことから、企業が定年延長などの施策を打ったとしても人材が徐々に減少していくことが見込まれる。特に大企業においては事業規模を一定維持するために人材を囲い込まねばならないというプレッシャーがきつくなると想定されることから、人材の固定化はむしろ今よりも進んでしまい、結果として偏在化の構造は留まり続けるのではないか、とも考えられる。今のうちに何らかの仕組み作りを行っていかないと、構造的なリソース再配分による生産性の向上など望むべくもない状況に陥ることを危惧している。
人材が動かないと
イノベーションは生まれない
生産性向上を語るうえでは、上述のようなリソース効率の観点だけでなく、アウトプットそのものの質・量をどのように向上させるかという観点も欠かすことができない。日本が持続的な成長を続けるには、どのような産業・企業においてもイノベーションが不可欠であることは言うまでもなく、日本企業においても、ここ数年、産学、産産、学学など、さまざまな組み合わせでのオープン・イノベーションが試みられている。
イノベーションというと、とかくビジネスモデル/マネタイズモデルや知的財産の扱いに関心が向きがちであるが、実際にビジネスを担う人材が交流し、触れ合うことが非常に重要であると考えている。
早稲田大学の入山章栄准教授が「両利きの経営」として提唱されているように、企業がイノベーションを生み出すには、「知の進化」だけでなく、さまざまな知と知との組み合わせを模索する「知の探索」が必要である。
世の中にある新しいものはすべて既存のものの新たな結合である、という前提の下、現在の自社の事業・ビジネスモデルとできるだけかけ離れた事業・ビジネスモデルを探し、学び、交流し、新しいものを創発していく取り組みであると理解しているが、それではその探索を実行する主体は何かというと、まさに人材である。
「知の探索」を具体的に実行することをイメージしたとき、志を持った人材がさまざまな企業・組織に実際に足を運び、語らい、実際の動き方を理解しようと試み、共感し、協働するといった一連のプロセスが想定できる。日本らしさというものを考えたときに、このような動き方は、これまで日本企業が大事にしてきた「現地現物」「現場主義」とまさにフィットするのではないか。
ただし、今後の課題となりうるのはスピード感であろう。SMAC(Socail、Mobile、Analytics、Cloud)と呼ばれる言葉に代表されるように、デジタル化はすさまじい勢いで進展しており、それはビジネスのあり方をよりアジャイルにかつスピーディに変革しているだけでなく、人と人とがよりつながりやすくなる環境が整ってきているといえる(「グローバル ヒューマン キャピタル トレンド サーベイ2016」)。
このような環境を活用しつつも、本質的な人材の交流と議論を実行できるかが、ポイントの1つであると考える。また、さまざまな企業の方とお話しすると、大企業の中での取り組みは、内部統制や役割権限の観点からどうしてもスピード感を持ちにくいということをよく聞く。大企業の人材がいかに外に飛び出して協働の場を作り上げるかも今後のポイントの1つであろう。