オープン・タレント・マネジメント(社内外循環型モデル)への
チャレンジが求められる

 日本型人事の特徴としてよく言われてきたのは、パッケージとしての「新卒採用+ローテーションによるジェネラリストとしての育成+定年までの長期雇用」であり、大規模なビジネスを動かす際に、コミュニティ内におけるコミュニケーション・コストの低さが非常に有効に働いてきたといえる。

 しかしこれはいわば正社員に限定した話であって、日本企業は、その一方でいわゆる非正規社員の活用による労働力調整を行うことで安定的な経営を維持してきたと思われる。「正社員のコミュニティ内活用と非正社員のフレキシブルな活用による組み合わせ(イイトコドリ)」が日本型人事の強みであったといえる。

 昨今、この状況は変わりつつある。ご承知の通り、女性活躍に代表されるダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みが進んできており、さまざまな企業において、企業内に人材や価値観の多様性を持たせることが企業の成長につながるものと真剣に考えられるようになってきている。また、これからの正社員プールでもあるミレニアル世代(2000年以降の入社者)の意識はこれまでの世代とは異なってきているようである。

 デロイトが行った「2016年 デロイト ミレニアル年次調査」によれば、この世代が企業に重視するものは(報酬は最も重視するとしても)、自分自身を成長させる環境であるかどうか、財務的な成長以外にも長期的な持続可能性を含んでいるか、が特徴的であり、日本でさえ調査対象者の52%の人材が今後5年以内に離職を考えている。

 上記のような多様な人材のマネジメントに加え、前述の通り、個社を超えた人材の固定化・偏在化の解消や知の探索を企図した外部人材との協業を進めていくためには、日本型人事は、これまでの社内に閉じたモデルから、オープン・タレント・マネジメント(社内外循環型モデル)へと変貌を遂げる必要性が生じてきている。

 ただし、一方で、雇用はセンシティブな問題であり、世の中の雇用に対する考え方をすぐに変えていくことは難しいという制約もある。人材を動かすというのは簡単に実現できるものではない、という前提に立ちながら着実に歩を進めるべきであろう。すでに大企業においても、複業・出戻り・プロボノなど、外部人材との交流を促進する施策が徐々に実践されてきているが、すぐに取り組めることから始めつつ、人材マネジメント方針・施策群を包括的・統合的に再構築していくことが求められる。

 また、多様化や流動化が普通となる組織をまとめていくためには、高い志を語り共感によって人を惹きつけるリーダーシップが求められるであろう。さまざまなバックグラウンドを持つ人材をつなげる求心力の基盤となるのは、企業の枠組みを超えた社会益やミッションであると考える。ベンチャー・NPOでは一般的ともいえるこのようなマネジメントスタイルを、大企業においても創業の精神に立ち戻って、いま一度見直すべき時が来ている。

 人材に関わる課題が常にそうであるように、このテーマも到底一筋縄ではいかない。しかし、これまで述べてきた通り、「人材の固定化・偏在化」を切り崩していくことこそが、日本の生産性向上に対する解の1つになる。