ベンチャー研究機関に優秀な人材が集う理由

編集部(以下色文字):カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)は、2007年に発足した、まだ若い研究機構だと思います。にもかかわらず、毎年十数人の若い研究者であるポスドクの公募に対して、約700人の研究者が応募すると聞きます。Kavli IPMUが世界各地から優秀な研究者を惹き付けられる理由を教えてください。

村山(以下略):私たちも必ず採りたい人を採用できているわけではありません。優秀な人材は他からも声がかかるため、勝ったり負けたりしています。人材の争奪戦になった時には、Kavli IPMUの持つ特別な面を強調し、それに共感してもらうよう説得します。

 よい研究をするためには、よいデータや施設、装置は必要不可欠です。たとえば、日本は「すばる望遠鏡」という最先端の望遠鏡を持っており、そこからよいデータが収集できます。巨大望遠鏡を使う権利を持つ研究機関は限られているので、それを使えるのはKavli IPMUの大きな魅力であり、差別化要因になります。

 もう一つ、ほかにはない特徴として、「異分野が融合した研究機関」という点が挙げられます。たとえば数学と物理、物理と天文学など、2つの分野が協業する研究機関は存在しますが、数学と物理と天文学という3つの分野が融合した研究機関は、世界にもKavli IPMU以外にありません。さまざまな分野の専門家が共存し、その中で「知が擦れ合うこと」から、新しい発見が生まれることを狙っています。

 異分野の研究者との接点を持つことは、実際、研究にプラスに働くのでしょうか。

 自分が進んでいる道をひたすらまっすぐに進むと、徐々に減速し、いずれ壁に当たって止まってしまうものです。そのような時に、まったく違うことを始めてみる。すると、一見関係ないかのように思えても、しばらくして元の問題を見てみると、壁の先が見えていることがあります。壁にぶつかった時は、力ずくで前に進もうとするより、回り込んだほうが、その先にある別の道が見えてくるものです。

 たとえば、カリフォルニア大学バークレー校にルイス・ウォルター・アルバレズという、ノーベル物理学賞を取った伝説的な学者がいました。泡箱という特別な装置を使い、素粒子のさまざまな新しい状態を見つけたことが受賞理由です。でも、彼の実績としてよく知られているのは、「恐竜が絶滅した原因は隕石だ」という研究です。

 素粒子と恐竜。まったく関係ないように聞こえませんか。けれども実は、この2つはつながっているのです。素粒子の実験では、地球にやってくるミクロの粒子をつかまえ、その粒子を判定する技術を磨き上げています。その技術を使うと、ユカタン半島の海底にある地層にイリジウムが多いことがわかりました。しかし、イリジウムは地球上にはほとんど存在しません。