「医療界のエジソン」と呼ばれるエンジニア

 昨年(2016年)のある朝、ジェームズ・ダールマンは、マサチューセッツ工科大学(MIT)コッホがん総合研究所のボブ・ランガーのオフィスに別れを告げに来た。面会相手はランガーと、博士課程の指導教員ダン・アンダーソン。29歳になるダールマンは、ジョージア工科大学医用生体工学科で初めて教職の仕事に就くことが決まり、2人の助言を求めに来たのだ。

「何か大きなことをしたまえ」とランガーは言った。「ちまちまとしたことではなく、世界を変えてしまうような大きなことを」

 これは単に元学生を鼓舞する言葉ではなく、MITでの40年間、放出制御型薬物の送達や再生医工学(tissue engineering)のパイオニアである化学エンジニア、ランガーが指針としてきたモットーでもある。そしてこのモットーのおかげもあって、ランガー研究室は世界で最高水準の生産性を誇っている。