IT人材やプログラマーを増やすことが目的ではない
――小学校のプログラミング教育必修化に向け、議論が進められていますが、先生のお立場では、「賛成」となるわけですね。

実は先日(2018年5月17日)、「未来投資会議」が開催され、新聞各社が報道し、私のまわりでも大きな話題となったのですが、そもそもIT人材やプログラマーといった専門家をたくさん育てるのが目的ではなくて、社会の構成員全体に情報分野の知識や考え方を普及させることが目的だということです。
AIをはじめとした情報技術は、活用されてはじめて意味があるものです。そのためには、広く社会の人々がそれなりの素養を持って、使いこなしていく状況が大切なのです。社会での利活用が進めば、情報技術の進展も加速していきます。社会の受容と活用が情報技術の発展にとっても重要だし、そのための初等・中等教育における情報教育であり、小学校のプログラミング教育との位置づけです。
そこに対する理解が、情報分野にかかわる人のなかでも不十分で、「小学校でプログラミングなどやらないで、ちゃんと算数を勉強したほうがいい」とか、「大学入試に情報科目など追加しないで、英語や数学を学んだほうがいい」という人も残念ながら存在します。
情報的なものの考え方、すなわちコンピュテーショナル・シンキングはすごく重要で、数学の勉強にもいい影響を与えるし、国語の読解力にも役に立ちます。数学や国語のためにも情報教育をやったほうがいいと思います。
――AI人材の不足は、日本企業のグローバル競争力の低下にもつながりかねません。
AIだけではなく、情報技術のあらゆる分野が立ち遅れていることに加え、新しい企業が育ってきていないことも懸念されます。情報系の学生が就職する際、優秀な人材はグーグルなどの外資系に持って行かれてしまう現状があり、いくらIT人材を育成しても、彼らが活躍できる場が日本企業では限られていることは、人材育成と産業界の双方にとって大きな問題です。今後はAIやITを活用するユーザー企業が、自らAIなどについて学び、情報系人材の受け皿となる必要もあるでしょう。
――AIが基盤技術となる社会で、人々は何を考え、どう行動すべきですか。
AIが仕事を奪うと言われていますが、そのためにはAIを活用できないといけないわけで、本講座のような人材育成が必要ですし、さらにそうした人材を使う側は、AIで何ができるのか、できないのか、おおよその感覚がないとダメでしょう。少しでもAIと基礎となる情報技術を学んでもらえれば、AIで何ができるかがわかりますし、それに基づいて、必要な人材、技術、ビジネスへの活用も明らかになります。
マネジメント層や経営トップの方にも、ぜひAIや情報技術について学んでほしいと思います。そのためにも大学をはじめとした教育機関は、リカレント教育にいっそう注力していく必要があります。
(構成/堀田栄治 撮影/宇佐見利明)

