日本の消費財メーカーが収益性や成長性で海外プレーヤーに勝てない理由はどこにあるのか。2009年にカルビーの会長兼CEOに就任して以来、売上高を約1.8倍、営業利益を約7倍に伸ばした実績を持つ松本晃氏に、デロイト トーマツ コンサルティングの鬼頭孝幸氏が聞いた。

本気で稼ぐ気がなければ
利益率は上がらない

前カルビー代表取締役会長兼CEO
RIZAPグループ代表取締役COO
松本 晃

AKIRA MATSUMOTO
京都大学大学院修了後、伊藤忠商事入社。1993年にジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人に転じて社長などを歴任。2009年にカルビー会長兼CEO、2018年6月に現職。

鬼頭 日本企業、とくに消費財メーカーは海外先進企業と比べた場合、概して成長性と収益性の面で見劣りしています。その根本的な要因について、どうお考えになりますか。

松本 日本市場は成長が止まっているとか、海外に比べてコストが高いからとか、いろいろと理由は挙げられますが、根本的な要因は企業として本気で儲ける気がないからだと思います。

 日本は横並び社会ですから、例えば競合他社の営業利益率が5%なら、うちの会社もそれくらいでいいんじゃないか、と考えてしまう。目標としているスタンダードが低いから、利益率も成長率も上がらないのだと思います。

 僕がカルビーに来た時、海外のメジャーな食品メーカーの営業利益率を調べてみたら、だいたい15%がスタンダードでした。だから僕はカルビーのCEOに就任して、「営業利益率を15%にする」と宣言したのです。僕がCEOになる直前の2009年3月期の営業利益率は3.2%でしたが、15年3月期以降は11%を超えています。まだ15%には届きませんが、カルビーでもできたのだから、ほかの会社も利益率をもっと上げられるはずです。

デロイト トーマツ コンサルティング
執行役員 パートナー
鬼頭孝幸

TAKAYUKI KITO
化粧品、アパレル、食品・飲料などの消費財メーカーや流通企業に対し、グローバル戦略、事業戦略、マーケティング、ブランドマネジメントなどの領域で豊富なコンサルティング経験を有する。

鬼頭 CEOに就任された当初、カルビーはどのような課題を抱えていましたか。

松本 経営理念や社風は素晴らしいし、商品の品質も非常に高い。しかし、強い会社ではありませんでした。強くならなければグローバルな競争のなかで生き残れないし、もっと儲けないと社員も豊かになりません。

 どうすれば利益率が上げられるか、その理屈は難しいものではない。問題はその理屈通りにやれるかどうかです。

 カルビーはスナック菓子で圧倒的なトップシェアを持つ会社ですが、私がCEOに就任した当初は、2番手企業よりも製造コストが高かった。工場が多くて、稼働率が低かったからです。そのため固定費が高く、利益率が低かった。だったら稼働率を上げればいい。

 稼働率を上げるために工場を閉めるという選択肢もありますが、日本の労働環境では難しいし、僕は人を切るのは苦手。そうすると稼働率を上げるには、たくさん作って、たくさん売るしかない。当時のカルビーはトップメーカーではありましたが、伸び悩んでいました。シェアを落としている商品もありました。ブランド力は高いのですが、値段が高かったからです。デフレの時代にそれでは売れないので、まず変動費を下げて、それを原資に競合商品との価格差を解消しました。

 そうすると、お客さまが帰ってきて、シェアが上がった。シェアが上がると工場の稼働率が上がり、利益率も高まった。言葉にすると、実にそれだけのことなのです。

鬼頭 最近では、AI(人工知能)やロボティクスなど新しいテクノロジーがどんどん進化しています。稼ぐためにそうしたテクノロジーの進化をうまく取り入れていくことも必要です。

松本 工場のIT化やロボット化はもっともっと進めるべきです。製造分野での効率化、生産性向上の余地はいくらでもあると思います。

 一方で、オフィスで働く人たちの生産性が日本は先進国のなかでも低い。ただ、これはITやロボットなどを取り入れるだけでは解決しません。最新ツールを使って定型業務を効率化できたとしても、人は簡単に減らせませんし、下手をすると余計な仕事を増やすことになりかねません。

 パソコンがいい例です。うまく使えばとても有効なツールですけど、会議の資料ばかり作っていたら生産性も利益率も上がりません。

 カルビーは私が来る以前からIT活用に積極的で、多種多様な指標でデータを分析する「コックピット経営」を行っていました。しかし、どんなにデータを分析してもアクションに結び付かなければしょうがない。アクションに結び付かないものは、会社の成果に結び付きませんから。

 ですから、私は分析する指標を絞って「ダッシュボード経営」にしなさいと言いました。データを分析して何を考え、どう仮説を立ててアクションに結び付けるか。それは、AIやロボットではなく、人間の仕事です。