ビジネスでいちばん楽しいのは
頭を使うこと
鬼頭 経営を取り巻くさまざまな環境が急速に変化するなかで、日本の消費財メーカーに求められる変革とは何だと思われますか。
松本 残念ながら、日本の人口減少と少子化の流れは止まりそうにありません。今後も成長を続けるためには海外に出て行くしかありません。
鬼頭 日本の消費財メーカーは商品自体は海外勢に負けていないのですが、マーケティングが弱いために成果に結び付いていない部分も少なくないのではないでしょうか。
松本 その問題は大きいと思います。日本にマーケティングという概念が入ってきてから歴史が浅く、進化のスピードも上がっていません。いまだにマーケティングの4P(製品・価格・販促・流通)のステージにとどまっている企業も多い。私は、それを「マーケティング1.0」と言っているのですが、大量生産・大量宣伝でモノが売れていた時代は、それでもよかった。
しかし、いまは顧客にとっての課題が何かを理解し、それを解決してあげないとモノは売れません。それが、私の言う「マーケティング2.0」です。
具体例の一つが、カルビーの「フルグラ」です。1991年に「フルーツグラノーラ」として発売された商品ですが、私がCEOに就任した頃は鳴かず飛ばずでした。ところが、実際に食べてみるとおいしい。家族や友人に食べてもらっても、みんな「うまい」と言ってくれる。それで、てこ入れしようと思ったのですが、周りは乗り気じゃないのでCEO直轄のプロジェクトにして、戦略を一から見直しました。
日本人は覚えやすい名前が好きなので、まず商品名を「フルグラ」に変え、次は誰に売るのか、ターゲットを明確にしました。最初は、「働く女性たち」です。朝食をきちんと食べない女性が多いのは、時間がないからです。その問題を解決するための「時短」商品として打ち出しました。
女性は健康問題に敏感で、便秘や貧血で悩む人も多い。フルグラは食物繊維や鉄分などが豊富に含まれていて、牛乳やヨーグルトをかけて食べるとさらに栄養バランスがよくなります。そして、減塩食品でもある。
働く女性が抱えるそういう課題解決につながる点をストーリーとして展開したところ、いろいろなメディアが取り上げてくれて、広告宣伝費をかけずに売り上げを大きく伸ばすことができました。リニューアル前に20億から30億円ほどだった売り上げが、いまでは国内で250億円、中国と合わせて約300億円の商品に成長しました。
私はマーケティングに金を使うなと言ったことはありません。でも、まず頭を使え、と。その次は、汗をかけ。金を使うのはその後だと言ってきました。マーケッターはテレビCMなどにお金を使えて楽しそうだと思っている人がいますが、ビジネスでいちばん楽しいのは頭を使うこと。マーケッターのいちばん大事な仕事は、頭を使うことです。
失敗から学ぶ習慣が
日本にはなさ過ぎる
鬼頭 経営は頭を使って意思決定することの連続です。意思決定の精度を高めるためには何が大事でしょうか。
松本 それは、訓練です。そのためには、意思決定をした結果がどうなったか、その責任を明らかにしなくてはいけません。私が言う結果責任とは、失敗したら降格するとか、給料を減らすということではありません。
誰がどこで、なぜ失敗したのか、その原因をしっかり把握して、失敗から学べということです。日本には、その習慣がなさ過ぎると思います。ボトムアップで責任者が誰だかはっきりしない、結果について誰も責任をもって原因究明をしないということでは、失敗から学ぶことはできません。
負けた人は逃げたがりますよね。問題は上に立つ人です。負けた原因は何なのか、それをきちんと追求する。それが負けた本人のためでもあるし、会社のためでもある。それを繰り返している会社が強くなって、何となくお茶を濁している会社はだんだん弱くなるということじゃないでしょうか。