失敗から学ぶためにも的確なPDCAの徹底を

デロイト トーマツ コンサルティング 鬼頭孝幸

「極めて明快でシンプル」。松本氏の経営に対するお考えを伺って、真っ先に浮かんだ言葉だ。

 目標を高く持て、考えることが大切であり醍醐味でもある、AIなどのツールにおぼれるな、失敗から学べ──。いずれも、言われてみれば至極当然のことであり、誰もが大いに納得するメッセージだろう。

 しかし、こうした当たり前のことほど徹底することは難しい。これまで数多くのビジネスパーソンと仕事をともにしてきたが、自らも含め、こうした本質的なことをどこまで徹底できているかを問うてみると、自信をもって「イエス」とは言い難い。

 特に失敗から学び、結果責任を明確にすることは、基本中の基本である。

 例えば、いわゆるPDCA(計画・実行・検証・改善)は、業界や職種、国境を超え、すべてのビジネスパーソンの必修科目といって過言ではない。にもかかわらず、的確なPDCAサイクルを実践、徹底できている企業、職場は必ずしも多くはない。

 徹底されない理由はさまざまだが、大きな要因の一つとして、そもそも検証するための仕掛け、つまり、実行した戦略や施策の効果を図る指標やフレームワークがない、あるいは効果測定のために必要な情報が収集できていない、といった問題が挙げられる。また、効果測定の仕掛けがあったとしても、表面的な数値でしかなく、次の打ち手を考えるための材料になっていないケースもある。もちろん、結果を見て、次にどうするべきか“徹底的に考える”クセがない、ということもあろう。

 消費財企業で考えた場合、特にマーケティングや営業に関して、PDCAが徹底されていないことが多い。日本企業ではことさら、その傾向が強い。マーケティングや営業の戦略・施策を構築し、PDCAを回すためのフレームワークが不十分であることがその一因だ。また、マーケティングや営業の個別の施策に関して、それぞれがどの程度の効果を生み出しているか、そのROI(投資対効果)の測定が容易ではないこともハードルとなっている。

 松本氏が触れられているように、お金を使う前に頭を使い、汗をかくことが肝心だが、そのためにも、マーケティングや営業領域においてPDCAを徹底し、「考える材料、失敗から学ぶ材料」を得ることが大切だ。昨今ではテクノロジーの進化が、マーケティングや営業領域における施策のROI測定のあり方も変えつつあり、より実用的で正確性の高い測定が可能となってきている。そうした恩恵を最大限に生かし、マーケティングや営業領域における効率を最大化していくことが、日本の消費財企業の成長の鍵を握ると言っていいだろう。