偉大なリーダーを真似しても限界がある

 この半世紀というもの、リーダーシップの研究者は1000以上の調査研究を実施し、「これが一流のリーダーである」といえるスタイル、特性、資質を探ろうとしてきた。しかし、理想のリーダー像を描き出した研究は一つもない。ありがたいことだ。

 もし学者が正真正銘のリーダーシップ・スタイルなるものを突き止めたりしていれば、それを再現するために、みな汲々としていることだろう。それに、これは仮面であり、本当の人格ではない。周囲もそれを一目で見抜くことだろう。

 だれかの真似をするとは、本来の自分を偽ることである。他人の経験に学ぶことはできるが、他人になりすましても無意味である。信用は、だれかを真似ている時ではなく、ありのままの自分を表現できている時に得られるものだ。

 アムジェンのCEO兼社長、ケビン・シェアラーは、1980年代にジャック・ウェルチの下で働き、かけがえのない経験を得た。個人崇拝の負の部分をつぶさに観察できたのである。彼はこう語っている。

「当時は、だれもがジャック・ウェルチのようになりたがっていました。ですが、リーダーシップにはいろいろなスタイルがあります。自分らしさを忘れるべきではなく、他人を真似るべきではありません」

 この5年間、リーダーシップに根深い不信感が生まれてきた。裏返せば、21世紀には新しい種類のビジネス・リーダーが必要であることがだんだん明らかになってきたのである。2003年に上梓されたビル・ジョージの著書『ミッション・リーダーシップ』[注]は、「自分らしさを貫くリーダーになりなさい」というメッセージを若い世代に訴える内容であった。

 自分らしさを貫くリーダーはみずからの目標に情熱的に取り組み、みずからの価値観をぶれることなく実践し、知識だけでなく感情の面から人々を引っ張っていく。実りある人間関係を長期的に築き、みずからを律することで結果を出す。それもこれも、自分自身をよく知っているからである。

『ミッション・リーダーシップ』の読者──そのなかには経営者もいた──から、どうしても「自分らしさを貫くリーダー」になりたい、その方法が知りたいという声が多数寄せられた。これを受けて、我々は「自分らしさを貫くリーダーになり、それを継続していくにはどうすればよいのか」という課題に取り組むことになった。