専門家であると同時に
リーダーシップが重要

 最初の基調講演で登壇したのは、一橋大学名誉教授の石倉洋子氏。「新しいCFO?」と題して、「Inclusive Growth」やCSV(共通価値の創造)を含め、事業環境が変化するなかでCFOが果たすべきユニークな役割について持論を展開した。

一橋大学名誉教授
石倉洋子氏

 地政学リスクの増大、経済格差の拡大、極端な気候変動など、世界は激変している。世界秩序が変化するなかで、企業の役割も変わりつつある。政府や国際機関の存在感が相対的に低下しており、格差解消などを含めて「Inclusive Growth」の主役になるのは民間企業だと石倉氏は言い切る。

「CSVでもよく議論されたが、国の役割は富の再配分であり、新しい富を生み出すのはあくまでも企業だ。社会的課題の多くはグローバルに広がっている。その解決に向けては、グローバルに活動する企業の経験や資産を活かすことができるはず。企業が中心となって、政府や市民団体などが協働していくことが望ましい」

「Inclusive Growth」の主役となるべき企業だが、その取り組みはまだまだ遅れているのが現状だ。MITのレポートによると、多くの企業はサステナビリティの重要性を認識しているが、それを実際の事業活動で実践しているのは25%に留まるという。サステナビリティを事業活動に組み込むには、長期的な利益を生み出す事業戦略に結びつけることが不可欠であり、そこはCFOの腕の見せ所だ。

 加えて、サステナビリティの実践や社会的課題の解決は、企業が一社単独で取り組むことは難しく、他社との連携やエコシステムへの参加が必要になる。そのことが自社にとってどのような意味を持つのか、自社の事業への影響を含めて分析すること、あるいは業績を確保しつつサステナビリティを進めることもCFOの大事な仕事になる。

 SDGs(持続可能な開発目標)は国連総会で2015年に採択された開発目標だが、現在、AIやロボティクスなどテクノロジーに次いで、経営者の大きな関心事となっている。これに基づいて事業展開を行うには、どのような形で取り組めば長期的な競争優位を築くことができるのか、「持続可能な世界を実現するための17のゴール」のなかから、自社に合った項目にフォーカスする必要もあるだろう。

*SDGsの17のゴール(目標)は次の通り。1.貧困をなくそう 2.飢餓をゼロに 3.すべての人に健康と福祉を 4.質の高い教育をみんなに 5.ジェンダー平等を実現しよう 6. 安全な水とトイレを世界中に 7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに 8.働きがいも経済成長も 9.産業と技術革新の基盤をつくろう 10.人や国の不平等をなくそう 11.住み続けられるまちづくりを 12.つくる責任/つかう責任 13.気候変動に具体的な対策を 14.海の豊かさを守ろう 15.陸の豊かさも守ろう 16.平和と公正をすべての人に 17.パートナーシップで目標を達成しよう

 テクノロジーの進展がもたらす“光と影”、さらに日本においては少子高齢化に伴う人材不足の問題も深刻化している。企業の持続的成長には、イノベーションとそれを創出する人材が不可欠であり、長期的な視点から人材を確保・育成していくことはCFOにとっても重要なテーマだ。リモートワークやコワーキングの活用によって、新しい働き方、柔軟な雇用を実現することも検討の余地が大きい。

「自社にとって重要な情報を見極め、事業環境の変化や自社の業績への影響を数字に置き換えて考えてみるのは、CFOにとっては重要な仕事。そのためにも、財務知識や数字の分析だけでなく、世界の状況はどうなっているのか、常に最新の情報に触れておくことが大事」と話す。

 CFOはスペシャリストであると同時に、企業を牽引するリーダーシップが重要だという石倉氏は、最後にハーバード・ビジネス・スクール教授、ロザベス・モス・カンター氏の「リーダーシップの6ups」(ポジティブな変化をリードする6つの鍵)を紹介した。「6ups」とは、「Show up」(登場する)、「Speak up」(物を言う)、「Look up」(志は高く)、「Team up」(チームで仕事をする)、「Never give up」(決してあきらめない)、「Bring others up」(他人を盛り立てる)をそれぞれ意味する。

 さらに、「What If?」「So What?」「What else can we do?」の3つの視点から、常に問い続けることが大切だと話した。「特に、What elseについては、ほかにどのようなやり方があるのか、CFOならではの数字の裏付けがあると圧倒的に説得力が増す」とエールを送った。