AI活用で成功するプロジェクト

 2013年、MDアンダーソンがんセンターは「ムーンショット」プロジェクトを開始した。これは特定の種類のがんについて、IBMのコグニティブ・システム「ワトソン」を使って診断と治療計画の提案をする取り組みである。しかし2017年、このプロジェクトは費用が6200万ドルを超えたところで中断され、ワトソンが患者のために利用されることはなかった。

 同センターのIT部門はこれと並行して、そこまで野心的ではない業務、すなわち患者の家族へのホテルやレストランの提案、医療費の支払いに支援が必要な患者の特定、スタッフのIT関連の問題の解決などについても、コグニティブ技術の実験を行っていた。そしてこれらのプロジェクトでは、期待を上回る結果が出た。新たなシステムによって患者満足度が上がり、財務実績が改善し、同病院のケアマネジャーたちが面倒なデータ入力に費やす時間が減ったのである。

 ムーンショットプロジェクトは頓挫したものの、MDアンダーソンはがん治療の充実を目指して、引き続きコグニティブ技術、すなわち次世代の人工知能(AI)の活用に力を入れ、コグニティブ・コンピューティングの導入を促す組織で、さまざまな新規プロジェクトを開発している。