人事情報が管理するものだけにとどまり、人材データとして活用されていない。企業が人材難にあえぐ今、人事戦略も高度なテキストマイニングなどで情報を視覚化し、マーケティングと同じように仮説と検証を行う「科学的」なアプローチが必要だ。
なぜ今、科学的人事戦略が
求められるのか
日本の上場企業で連結子会社数が一番多い企業の数は1304社。ここに約11万5000人の社員がいる(2018年3月期)。経済産業省が18年に公表した資料によれば、連結子会社数が50社以上ある上場企業は271社で、全体の約12%に当たるという。連結子会社を事業セグメント別に分けた場合、商社系列ではセグメント数が多くなるのは頷けるが、メーカー系でもセグメント数が7を超えているケースもある。
これらの実態は、グループ内に多種多様な人材を抱えていることを意味している。本社のみならず、連結子会社も含めた膨大な「人材資源」のなかから、事業推進や変革に最適な人物を「発掘」するのは、まさに経営戦略そのものだ。広く俯瞰し、属性を見極め、所属や職歴にとらわれない人材資源の活用を実現してこそ人事部門は経営戦略のハブになり得る。
ビッグデータの活用をベースにしたタレントマネジメントシステムの開発を続けるプラスアルファ・コンサルティングの三室克哉社長は、「人事部門は、人事データと人材データの違いにまず気がつくべきだ」と訴える。最適配置の人材育成やタレントマネジメントへの要請が強まるなかで、人事部門は本当にグループ社員も含めたスキルが見えているのか。いまだに経験と勘に頼った属人的な人事管理に終始しているのではないか。
「人事部門では人事データの管理にとどまり、データに基づいた分析や理論化がほとんど行われていません。最適配置の要請に応えるためには、人事部門がマーケティング思考を持ち、ビッグデータ分析に基づく科学的な人事戦略を打ち出すべき時代になっています」(三室社長)

三室社長の訴える「科学的人事戦略」とは、新しい事業構造に対応できる人材の発掘と育成を目的にする。現状では例えば、部門長が、ある社員について「今こそ別の部門を経験させておいた方が良い」と考えていても、それが経営全体で共有されにくい組織的な壁があったりする。また、M&Aで新しい会社が加わり、人の交流も始まるが、そもそも被買収企業にどのような人材がいるのかが分からず、どのような交流策がM&Aのシナジーを高めるのかについて答えを見いだせていない状況があったりする。
プラスアルファ・コンサルティングのタレントマネジメントシステムを導入した企業に導入目的を聞くと、「人が増えてきて把握できなくなった」「経営層に客観的な人事データを示し、人事戦略の意思決定を支援したい」「社員のスキル向上を後押ししたい」といった声が並んだという。しかも、そうした声は企業規模が大きくなればなるほど深刻度を増す。人事データが膨大になることで、それを人材データとして活用できない"金縛り"にあっているような状況だからだ。