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失われつつあるアメリカの優位性
チャンスとイノベーションの国として、アメリカは数世代にわたって世界中の最も優秀な人たちを魅了し、呼び寄せてきた。しかし、その競争優位は失われつつある。この国の経済は、産業革命が起こって以来の、最も深刻な問題に直面している。それは、コストや生産技術にまつわるものではない。また、中国やインドの脅威といったものでもない。
世界は、いまやIT産業とイノベーションの時代へと突入している。ただし、その牽引役を果たしたアメリカにおいて、そのリーダーとして君臨し続けるという国策はない。また、アメリカの産業界や政治の指導者、研究者やアナリストのなかで、アメリカにおけるイノベーションと経済的繁栄の背後にある本当の理由を理解している者はほとんどいない。
それは、豊かな天然資源のおかげでも、市場規模のおかげでもない。もちろん根っからのヤンキー気質が、この国のグローバルな競争力を1世紀以上にわたって支えてきたわけでもない。
アメリカに奇跡的な経済力をもたらした要因はたった一つである。すなわち、新しいアイデアを受け入れる寛容性である。国民の創造的なエネルギーを動員し、利用することができたのもその賜物である。
スタンフォード大学の経済学者、ポール・ローマーが以前から主張しているとおり、大きな進歩は例外なくアイデアから生まれる。そして、アイデアは天から降ってくるものではなく、人間が生み出すものである。
ソフトウエアをプログラミングしたり、製品を設計したり、新しい事業を興したりするのも、みな人間である。また、〈iPod〉や化学プラントの効率を向上させる工夫など、我々に娯楽や生産性、利便性をもたらすものもすべて、人間の創意工夫による。
事実、このような創造的活動の中心は、いまなおアメリカである。アメリカのGDP(国内総生産)は10兆ドルを超え、国内には一流大学やシリコンバレーのほか、ITやバイオテクノロジー、エンタテインメントなどのリーダー企業が数多く存在する。
ところが、これまでアメリカがほぼ独占し、経済的繁栄の原動力であったグローバルな人材プールと最先端で収益性の高いクリエイティブな能力は、世界各国に流出し始めている。
アイルランドやフィンランド、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドを筆頭に、多くの国が高等教育に投資し、クリエイティブ人材の育成に取り組んでいる。その結果、ノキアの携帯電話から映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズに至るまで、数々の優れた商品が生まれている。
これらの国の多くは、アメリカの成功例に学び、アメリカを含め、全世界から優秀な人材を集めることに積極的だ。新たに台頭してきたこれらの国が、クリエイティブ人材の2~5%程度をアメリカから奪い去ると仮定しただけでも、アメリカ経済に及ぼす影響は深刻である。