21世紀は「クリエイティブ資本」が競争優位を左右する

 21世紀の企業において最も重要な資産は、原材料でも輸送システムでもなければ、政治への影響力でもない。「クリエイティブ資本」である。

 これは、端的に言えば、クリエイティブな能力によって、価値の高い製品やサービスを生み出せる人々のことである。新しい技術を開発し、新しい産業を創出し、経済成長の原動力となるのは人間の創造性なのだ。

 クリエイティブ・クラス、つまりイノベーションやデザイン、あるいは問題解決などを仕事とするプロフェッショナルたちは、アメリカの労働力人口の3分の1、賃金総額のおよそ半分を占めている。企業が成功するも失敗するも、これらの仕事を担う人たちの双肩にかかっている。これはまぎれもない事実である。

 しかし、創造性を最大限に引き出すマネジメントとなると、いまだ漠然としている。クリエイティブなプロセスは複雑で混沌としているものだが、そのような特性を考慮しつつ、効率化や品質改善、生産性の向上を図るにはどうすればよいのだろうか。

 これまでも、多くの研究者や企業がこの問題に取り組んできた。早くから知識労働者の役割を認識していたマネジメントの泰斗、ピーター・ドラッカーは、ドットコム時代が到来するはるか以前に、知識労働者をストック・オプションなど露骨な金銭的インセンティブで「釣る」ことの危険性について警告を発していた。

 彼の主張は、ハーバード・ビジネススクール教授のテレサ・アマビールとエール大学教授のロバート・スタンバーグという2人の心理学者が実施した調査でも裏づけられている。その調査によれば、クリエイティブ人材を動機づけるものは、自己の内面から湧き上がるものであり、いわゆる外発的報酬よりも内発的報酬のほうが効果的であるという。

 カリフォルニア州にあるクレアモント大学院大学教授のミハイ・チクセントミハイは、「フロー」という概念を援用し、創造性を生み出す要因と創造性が組織に及ぼす好影響について検証している。フローとは、脇目も振らずに物事に没頭している時に感じる満足感ややりがいのことである。

 クリエイティブなプロセスに関するこれまでの研究は、そのほとんどが個人の創造性を高める要因に焦点を当てたものだった。しかし、創造性を育み、その活用や融合を図るうえで最も適した状況を、社会およびマネジメントの観点から解明しようとする研究者が増えている。その例として、カリフォルニア大学デービス校経営大学院准教授のアンドリュー・ハーガドンや、ゼロックスの元主任研究員であるジョン・シーリー・ブラウンの名を挙げることができる。

 また、マサチューセッツ工科大学スローン・スクール・オブ・マネジメント教授のエリック・フォン・ヒッペルと、カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネス特別教授のヘンリー・チェスブローは、ユーザーや顧客がクリエイティブなプロセスに果たす役割の重要性を示し、「オープン・イノベーション」[注1]という新しい開発モデルを提唱して注目を集めた。

 あるいは、デューク大学フュークア・スクール・オブ・ビジネス教授のウェスリー・コーエンは、「吸収能力」が企業の創造性にとって重要であることを示した。コーエンは、R&Dによってイノベーションを生み出す力とは別に、外部で発生したイノベーションを上手に取り込む能力をこのように表現した。