スラム街出身のマイノリティ
行動するCEO

 ケネス C. フレージャーの経歴は、CEOとしてはかなり異質である。彼はフィラデルフィアのスラム街という厳しい環境で育ち、法曹界を志して法律を専攻した。フォーチュン500の中では、数少ないアフリカ系米国人CEOの一人でもある。

 フレージャーが逆境を乗り越えてきたことは間違いない。メルクの鎮痛剤バイオックスの回収をめぐる訴訟では、最高法務責任者(ゼネラルカウンセル)として弁護の先頭に立った。2011年にCEOに就任してからは、激変する製薬業界でメルク再建という偉業を成し遂げたと評価されている。R&D重視の姿勢を同社で復活させ、抗がん剤キイトルーダをはじめとする有望な新薬の上市を指揮してきたのである。

 フレージャーが全米の注目を集めたのは2017年8月、バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者の集会が暴動に発展し、反対派が一人死亡した事件が起きた後だった。トランプ大統領があたかも白人至上主義者の肩を持つような発言をした時、フレージャーは黙って見過ごすことができなかった。