高給と重責が過剰労働に拍車をかけている

 5年前、インドのムンバイからアメリカへ移住したサディールは、ニューヨークの商業銀行で金融アナリストの職に就いている。通常の勤務時間は週120時間を超え、比較的暇といわれる夏場でも週90時間は下らない。仕事以外の睡眠、食事、娯楽、入浴(彼はにやりと笑った)に費やされる時間は週わずか48時間だという。

 サディールは、急ぎの仕事がなくても深夜までオフィスに残っている。このように人生のすべてを捧げるような生活は、固有のリスクをはらんでいるものの、それだけの価値はある。何しろ給与は、新卒者の実績において全米で上位6%に入るトップ水準なのだ。

 より高い職位を例にしよう。ジョー(仮名)は出世競争に勝ち抜き、大手銀行のマネージング・ディレクターとなった。経営陣の一員になれば、もう少し仕事も楽になるだろうと考えていたのだが、その淡い期待は見事に裏切られた。彼は現在、毎日異なる場所で、週の6日か7日は仕事である。ニューヨークに部屋を借りて週2日働き、残りは各地を飛び回る。

 コネチカット州の自宅には、妻と3人の子どもの顔を見るために週末だけ帰る。とはいえ、自宅で過ごす土日でも、電話があればクライアントの元へ馳せ参じなければならない。ジョーの妻は、「結婚1年目のことでした。彼が会議に出席するために、私の祖母の葬式を延期したことがあります」と回想する。

 ミン・メイは、主にアジア地域で事業展開する不動産投資信託会社、プロロジスのマネージング・ディレクターを務め、執行委員会にも名を連ねる。彼は中国事業を担当しており、3年で同社の事業ポートフォリオをゼロから約1000万平方フィートまで拡大した。

 中国の政府高官と交渉するため、6日間で5都市を回るといったことも日常茶飯事だ。交渉は延々と続き、深夜まで宴席につき合い、必死に人脈を広げて友好関係を築く。このように多忙を極め、また重責を負っているため、彼はすっかり疲労困ぱいしているが、それでも仕事に打ち込んでいる。

「中国事業はまだまだ開拓の余地がありますから、やりがいを感じています。当社の物流センターは中国の成長にとって不可欠であり、中国経済の発展を支えています。ですから、自分の仕事を自負しています」

 BP(旧ブリティッシュ・ペトロリアム)の海洋施設監督(OIM)を務めるジョネル・ソルターも働き者である。彼女は、北海上の石油採掘所で働く80人の健康と安全に責任を負うことの意味を承知している。

 同時に、このようなプレッシャーに加えて、同僚とは異なる問題を抱えている。BPでアフリカ系女性初のOIMとなった彼女は、男性社会の職場にあって、みずからの権限を周囲に認めさせるための苦労が絶えない。

 それでもジョエルは、先駆けの一人であることを誇りにしており、会社が自分を選んでくれたこと、また困難を乗り越えるためにBPノルウェーの女性マネージング・ディレクター、グロ・キーランドをメンターにつけてくれたことに感謝している。