既成概念に囚われない問題解決策

 2003年、インドの環境研究者、ナラヤナ・ピーサパティは憂慮すべき傾向に気づいた。ハイデラバード県の地下水位が急速に低下していたのだ。降雨量データを調べたが、水位低下の理由はわからなかった。掘り下げてみると、原因は農法の変化だと判明した。地元の農家の多くは、昔から栽培していた雑穀が、次第に「貧しい人の食べ物」と見なされるようになったために、稲作に転換していた。イネは水をほしがる植物で、栽培には雑穀の60倍もの水が必要になる。電気料金に手厚い補助を受けられる農家は、ポンプで地下水を汲み出して、たえず水田に送り込んでいたのだ。

 ピーサパティは政府への報告書で問題点を指摘して農業政策に働きかけようとしたが、無駄だった。そこで、逆に雑穀の需要拡大を図る方法を探し、思い付いたのが、雑穀で「食べられるカトラリー」をつくる案だ。このアイデアでは地下水位の低下だけでなく、廃プラスチックによる環境汚染にも対処できる。彼は仕事を辞めて、このプロジェクトに専念した。10年後にこのカトラリーの動画をインターネット上に投稿すると、クチコミで評判が広がり注文が殺到するようになった。2度にわたってクラウドファンディングで資金提供を呼びかけた結果、目標の12倍を超える資金が集まり、2016年には初めて法人に製品を出荷した。地下水位が安定したかどうかを確認するには時期尚早だが、多くの農家が、すでに持続可能性のより高い雑穀の栽培を再開している。政府は生産量をさらに拡大するため、2018年を国の雑穀年に指定した。

 ピーサパティの経験からわかる通り、何らかの問題を解決するには常に2つのルートが考えられる。適応策(この場合は、政策に働きかけるために既存の手段を活用すること)と、独自策だ。日常的に発生する細々とした問題の多くには前者が適しているが、一筋縄ではいかない問題には、固定観念の枠を外して考えなければならない。