クロスボーダーM&Aを軸とした攻めの成長戦略を推進するNEC。それに伴い、海外を含むグループガバナンスがますます重要性を増している。法務、コンプライアンス、経営監査、輸出管理の4部門を統括する執行役員CLCO(チーフリーガル&コンプライアンスオフィサー)の小幡忍氏に、高度化するグループ経営管理へのチャレンジについて、グローバルリスク管理の専門家、岡部貴士氏が聞いた。

自前の進出とM&Aで異なる
グループ会社管理の難しさ

岡部 御社は「2020中期経営計画」で、海外事業を成長戦略の中核に位置付け、積極的なM&Aを展開しています。2018年は英国のノースゲート・パブリック・サービシズ、今年はデンマークのKMDホールディングスとITサービス企業の大型買収を相次いで発表されました。

日本電気(NEC)
執行役員CLCO(チーフリーガル&コンプライアンスオフィサー)
小幡 忍氏

 そうした攻めの成長戦略とともに両輪を担うべきグループ経営管理の難しさが増しているのではありませんか。

小幡 海外の場合は日本と言語や文化、さらには法制度も異なりますし、物理的な距離が離れていることで、目が行き届きにくいという問題があります。現場で何が起きているのか、国内よりかなりわかりにくいのは事実です。

 当社の場合、海外グループ子会社には2つのパターンがあります。1つは、M&Aによる事業買収で、もう1つは自前で会社を設立する、従来からの事業進出のやり方です。

 M&Aの場合、被買収先が一定の企業規模があれば、法務・コンプライアンス機能についても、あらかじめ構築されていることも多く、彼らにNECの考え方や取り組みを理解してもらい、いかに同じ目線で動いてもらえるような仕組みをつくれるかが大事だと思っています。

 一方、自前で立ち上げた海外子会社については、地域によって現地で十分なリソースを確保できないこともあります。例えば、期待した利益を上げられないケースでは、スタッフ部門の予算を絞らざるを得ないため、経営管理を担う人材が不足しがちです。

 当社では、こうした問題を解決するために、事業を遂行する縦軸に対して、横串としてのグループファンクションの機能強化を進めています。具体的には、法務・コンプライアンスに限らず、調達、人事、財務などもグループファンクションの機能を強め、その責任においてグループ横断で施策を企画、展開しています。

岡部 グローバル本社による管理や指導を強めると、どうしても現地における自由な発想や事業創造を阻害するのではないかという懸念も生じます。中央集権化によって本社がグリップを利かせる部分と、現地に権限委譲する部分のバランスに多くの企業が苦労しています。

小幡 私が担当する領域についても、法務とコンプライアンスとでは考え方が異なります。

 契約審査、法務対応などのリーガル領域は、現地の法制度や商習慣などに詳しい現地担当者に相当程度の権限を委譲することが可能ですが、コンプライアンスについてはグループに対する影響度合いが大きい場合があるため、権限委譲は最小限にとどめ、従来からのNEC子会社も、買収した会社も、一律に管理していくべきだと考えています。コンプライアンス関連の案件が発生した場合は、東京本社が正確な情報をタイムリーに把握し、適時に方針を決定することなどにより、リスクを広げないことが大事です。また、案件によっては社外取締役や監査役にもすぐに報告しなくてはなりません。ですから、中央集権にせざるをえないと考えています。

監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部
パートナー
岡部貴士氏

 かつては、買収した海外子会社の経営が順調で、利益が上がっている場合などは、既存のオペレーションを重視するあまり、コンプライアンスについても実質的に権限を委譲していたこともありました。しかし、それだとグループ全体のリスクを適切に管理できませんし、シナジーも出にくいため、方針を変えました。

 その際に大事なのは、PMI(買収後の統合プロセス)のステージでNECの考えや方向性をきちんと示すことです。そのためには、法務・コンプライアンスについての全体方針などを示せるように、あらかじめ明確にしておくことが大切です。

 統合プロセスの初期段階では、法務・コンプライアンスのグループファンクション責任者である私から、買収先の責任者に、しっかり説明するようにしています。