60年先の未来に向け、ヤマハの“サードウェーブ”を起こすため新ビジネスの開発に取り組む~ヤマハ発動機

二人目はヤマハ発動機 執行役員 MC事業本部長 木下拓也氏。MC(モーターサイクル)事業本部の直下には2つの組織がある。1つはエリア別事業部で、短中期計画の遂行、現有能力の効率化と合理化、マーケティングの構築実行を行う。もう1つは新ビジネス推進部だ。「スコープのタガを外す」「ターゲットのタガを外す」「現業の競合になってもよし」というスタンスで、新ビジネスの開発に取り組んでいる。
100年に一度のモビリティ革命と言われる中、自動車はどんどん自動運転の方向に進む一方で、オートバイは自動運転ができないし、人が乗っていないと倒れてしまう。スコープやターゲットのタガを外して考えないと、「やがて馬のように限られた空間でだけ楽しむ存在になってしまう」という危機感がある。
また、産業革命以降の歴史を見ると、技術革新は60年周期で勃興とクラッシュ、衰退を繰り返していることがわかる。現在の情報通信革命が成熟期を迎えるのは2030年頃だ。にもかかわらず、我々はいまだ20世紀初頭に生まれた「オイル&ガス」の技術で生きている。ヤマハ発動機はヤマハから分離されて約60年が経つが、次の60年先に向かって「サードウェーブ」を考える必要があるのではないか、という思いもあった。
昨年、2030年に向けたビジョンとして「ART for Human Possibilities」を打ち立てた。人間の可能性はもっと広げられるはず。その可能性をアートの形で提言したいという趣旨だ。ヤマハのピアノも3輪バイクも、共通するのはお客様の能力を開発する製品であり、これこそが我々のブランド・コア・バリューでもある。
2030年に向けたビジョンの浸透については、自社メディア(印刷媒体)を制作し、社内外にマーケティングを行っている。冊子が13号ぐらいになる頃には、サードウェーブが見えてくるのではないか。
新たな価値創出に向けデジタル技術と思想により関係性に変革を起こす~三菱ケミカルホールディングス

3人目は、三菱ケミカルホールディングス 執行役員 先端技術・事業開発室CDO 岩野和生氏。DXとは、デジタル技術と思想により、様々な関係性に変革を起こし価値を生み出すことだ。企業にとっては、売上げや利益の向上、リスクのコントロールなどに影響をもたらす。中長期では新しい社会との関係に変化が起きることで、アイデンティティの再定義、新しいサービスの在り方、価値の還元、負荷の分配について改めて問われることになる。
新規事業の開発にあたっては、IBM時代の経験から「エマージング・ビジネス・オポチュニティー(EBO)」というフレームワークを参考にして、戦略立案や組織づくり、運営などを行っている。チームづくりで重要なのは多様な構成員だ。年齢、性別、役割の多様性はもちろん、社内外からの出向も受け入れている。また、パートナーシップ、開発者コミュニティー、外部アドバイザーといったタレント(才能)のエコシステムも意識している。
DXのポートフォリオは、オペレーショナル・エクセレンス、ニュー・デジタル・ビジネスモデル、ニュー・デジタル・パラダイムの3本柱で構成され、それを支える全社共通インフラ基盤の整備と人材育成、組織・風土改革に注力している。さらに一般の社員に対しては、DXに向けた具体的な「武器」としてツールも開発し、提供している。例えば、最新テクノロジーの概要や業界への含意を記述したデジタルテクノロジーアウトルック、ビジネスモデルを検討する際の型を記述したデジタルプレイブック、機械学習プロジェクトの進め方フレームワークの機械学習プロジェクトキャンバスなどだ。これらは一部社外にも公開している。
DXの進捗は現在、「基盤づくり」を経て、「戦略的展開」のフェーズにある。デジタルの現場での運用を開始したり、経営指標に取り入れる等、将来に向けた布石を打つことも行っている。さらにその先は、「社会との新しい関係構築」のフェーズに持って行く方針だ。