「出島型」の組織づくりや人事評価制度の改革も必要

 楢﨑氏のコメントを受けて、入山氏は「出島型」によるイノベーションの取り組みの可能性についてパネリストに感想を尋ねた。木下氏は「やりたいことがあってのデジタルなので、デジタルそのものを自己目的化してはいけない」と語り、楢﨑氏もこれに同意を示し、「AI、ビッグデータ、いずれのバズワードもツールやデバイス、テクノロジーでしかない。それを使って何をするのかが重要であり、我々の場合は『安心・安全・健康のテーマパーク』ということだ。『あの会社、昔は保険会社をやっていたらしいよ』と言われるための変革に向けたイネーブラー(支援者)、カタリスト(触媒)がデジタルだ」と明言した。

 組織づくりに加えて、人事評価制度が重要と話すのは岩野氏だ。「現在30代、40代の人材が、10年後の会社の中枢を担うことになる。イノベーションに向けて何をすべきか彼らが自覚し、中心的に変革に携わっていく必要がある。しかし、DXのような新しく、不安定に見えるイニシアティブに身を置くよりも、確立された既存の組織の方が確実な貢献ができると考えるかもしれない。そういった意味で、人事評価制度を大きく変えないと、将来必要な人材が育ち、かつ定着しないのではないか。これは我々の悩みの1つでもある」という。

 人事評価や人材について悩みを抱えるのは楢﨑氏も同様だ。「保険業界は何世紀も変わっていないビジネスモデルを大人数でやっているところがある。加えて金融機関には、ゼネラリストを育てる慣習があり、3年ごとにローテションがあるため、専門人材が育たない。明確にこれをやりたいという人材がいなかったがゆえに、櫻田CEOの『安心・安全・健康のテーマパーク』というメッセージは、社員に腹落ちさせるために非常に大切だった」と振り返る。

 対照的なのがヤマハ発動機だ。「オートバイという、自分の趣味の延長線上に会社があるので、人事評価を気にする社員は少ない。なおかつ、社内は“放牧状態”になっているので、勝手に育った人材が抜擢される、まさにダーウィンの進化論の世界で、ものすごい人材が突然変異で生まれるケースもある。『仕事の報酬は仕事』だという企業文化が浸透している」と木下氏は話す。

パネルディスカッションのモデレーター、入山章栄教授。

社員がワクワクするような大義を設定することが第一歩

 ここからは、聴講者から寄せられた質問にパネリストがそれぞれ答えていった。

 「DXは若い世代がアントレプレナーシップを発揮してやるというのが主流だが、私のようなシニア世代も興味を持っている。リタイアしたシニアの活用についてはどう考えるか」という質問に対して、楢﨑氏は「SOMPOホールディングスはシニアこそ生産性の源泉と考えている」とエールを送った。「我々はいまシニアライフを再定義しようとしている。シニアを中心とした人間の能力をどうオーギュメント(拡張)していくかということに取り組むことで、日本は世界の生産性の中心になるし、その先駆けになれる。今後はシニアの起業も十分考えられる」と話した。

 一方、岩野氏は「我々の組織は最近は意識的に20代、30代を採用している」と前置きしたうえで、「定年で卒業した人材を、我々の若い人たちをサポートしたり、専門領域で活躍する目的で採用する動き行っている」と述べた。その理由は、知識と経験が豊富なシニア人材に、次の若い人たちをサポートするというマインドセットが出てくると、良好な関係が生まれ、新たな動きが生まれるからだという。

 入山氏も、「日本でダイバーシティというと、男性・女性の性別の話になるが、大事なのは年齢のダイバーシティで、年配者と若い人が交わりながら助け合っている企業も登場している。今後、大いに期待される動きだ」と語った。