次に寄せられたのが、「パネリストの話は自社の現状と大きく乖離している印象を持った。DXに向け、どこから取り組むべきか。最初の一歩についてヒントがほしい」という、シンプルだが重要な質問だ。モニター デロイトの藤井は、「センスメイキング理論にある通り、何をしたいのか、会社が大義を設定することが必要だ。社員がワクワクし“腹落ち”するような大義を設定することがスタートであり、そこから熱狂が生まれてくる」と見解を示した。
楢﨑氏は、トップのコミットメントが重要としたうえで、それだけでは不十分なため、レイヤーごとに異なる対処法を取ることが必要だと話した。「若手はデジタルネイティブなので、面白いと思えばついてきてくれる。経営トップも危機感を持っていれば心配ない。問題は役員だ。『デジタルって何だ?』という役員は、片っ端からシリコンバレーに連れていき、面白さを伝染させた。部課長クラスについては、彼らに手柄をつくってあげるようなサポートをして巻き込んでいった」と自らの経験を披露した。
「第一歩は、やりたいことがあるかどうか」と話すのは木下氏。やりたいことのネタやウィル(意志)がないと、DXの取り組みは継続しないという。「私たちが時々失敗するのは、若手に考えさせようとすること。トップに何がやりたいかがないと、考えるよう彼らに投げてもうまくいかない。トップでも、現場でも、やりたいと手を挙げる人間が必要だし、その人間にやらせることが重要だ」と述べた。
最後の質問は、「オープン・イノベーションについてどう考えるか」。木下氏は本田技研工業とのOEM供給を例に挙げ、「スコープのタガを外した」協業を今後も展開していくと方針を示した。楢﨑氏は、保険業界以外との垂直連携も模索していることを話し、岩野氏も具体的な話はこれからだが、構想の中にはあるとしている。
「DXやイノベーションは覚悟の問題。覚悟を持って、向こう傷をおそれずにやるしかない。みなさんもぜひ特攻隊となって局面を切り開いていってほしい」(楢﨑氏)。
「人間能力革命というテーマを持ってから、自分の人生は120年だと思った。あと70年で何をやるか。シニアが活躍するというよりも、もう1つ人生があるなら何ができるのか、といった視点で、新ビジネスの開発に取り組んでいきたい」(木下氏)。
「多くの人がDXブームを気にして、頭を悩ませていると思うが、変革を起こせる場に巡り合っていることは、千載一遇のチャンスと捉えるべきだ。同時に、各企業に責任があることも自覚しておきたい。我々は素材産業の中で変革を創出する責任を負っていると強く思っている」(岩野氏)。
「『知の探索』を進めるときに、抵抗勢力をどうするかという課題があるが、彼らも悪意があるわけではない。組織がよくなることを考えた結果、ブレーキをかけることもある。そのメカニズムを変革することは一朝一夕には難しい。だからこそ、既存の組織の常識を変えていくリーダーシップをトップが発揮する必要がある。ここに参加の200人の方が変われば、さらに多くの人々に伝播して、日本が変わっていくことを期待している」(藤井)。
パネリストたちは最後にこう締めくくった。(レポート前編はこちら)