デロイト トーマツ グループの戦略コンサルティング部門 モニター デロイトは『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』編集部と共同で2019年10月30日にセミナーを開催した。テーマは「イノベーション経営とリーダーシップ」。イノベーション経営に関して豊富な知見を有する早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏のほか、経営変革/デジタル変革の現場でリーダーシップを発揮している経営者を招き、イノベーション経営に向けた要諦や変革を推進するためのリーダーシップの在り方について、講演とパネルディスカッションが行われた。当日の内容を2回に分けてレポートする。(後編はこちら
早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏

 基調講演「世界の経営学から見る、イノベーション創出への視座」に登壇したのは、早稲田大学ビジネススクール 早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授の入山章栄氏。同氏は2014年から2018年までの4年間にわたり、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』誌上で連載「世界標準の経営理論」を執筆し、「両利きの経営」の重要性についてもいち早く日本に紹介してきた。講演では世界の最先端の経営理論の中から継続的なイノベーションの創出に必要な“視座”を提示した。なお、「世界標準の経営理論」は書籍化され、2019年12月4日にダイヤモンド社より刊行された。

 本日のテーマでもあるイノベーションについて、日本中の多くの企業が悩みを抱えています。その理由は競争が激しいこと、そしてデジタル技術の進展です。

 先日、ある経営者からこんな話を聞きました。「いま日本の産業はことごとくやられているが、それは、デジタルが入ってくるところから順番にやられているんだ」と。たしかにそうです。最初に家電や半導体セクターが不況になり、次に小売りが苦境に陥っています。出版業界もデジタル・ディスラプションに直面し、足元ではAI、IoTなどのテクノロジーによって自動車業界に大きな変革が起きています。製薬業界も数年後には確実にデジタル化が進展するでしょう。デジタルから一番遠いとされる素材産業はぎりぎり最後まで生き残れるでしょうか?

 とにかくいま、変化がものすごく激しいわけです。ちょっと前までは、自社と関係ないと思っていた業界と競争しなければならないし、しかもそれが中国やインドの会社だったりします。加えて、デジタル技術の進展については、すでにAIが社会実装されて、近い将来にはIoTが入ってきます。さらにその先には、ブロックチェーンや量子コンピュータといった技術が浸透する可能性もあります。

 変化のスピードが速く、先が読めない時代に、「うちの会社、うちの業界は大丈夫だろう」と思っていると、あっという間に消えてなくなるということが普通に起きています。例えば昨年、米国の小売り大手シアーズが倒産しました。十数年前までは優良企業だったのが、一瞬で消えてしまったわけです。ですから、とにかく小さなことでもいいから新しいことをやって、変化して、前に進むことです。これらを全部ひっくるめてイノベーションだと考えてください。決してグーグルやアップルが取り組んでいる大規模なものや、新規事業の開発だけではありません。日々の業務改善でもかまいません。とにかく、何か新しいことをやって、会社が変化することが重要です。