評価制度が「知の探索」を妨げることがある

 もう1つのパターンは、「私は失敗できないんですよ。何故かというと、私は会社に評価されているからです」という方がいます。つまり、評価制度が曲者なのです。みなさんも当然、評価したり、評価されたりすると思いますが、評価というのは、当期の成功か、失敗かをあらわすものです。人間は成功か、失敗かの紋切り型で評価されると、その瞬間から失敗が怖くなるので、「知の探索」ができません。

 よくイノベーションの話をすると、「それってR&Dの話でしょ。マーケティングの話でしょ。私には関係ありません」という方がいますが、絶対にそんなことはなくて、イノベーションというのは会社全体で取り組まないと進まないものなのです。その中で最も重要なカギを握るのは経営者です。ただ、あえてファンクションに分けて考えると、いま日本の会社がイノベーションを起こすうえで、一番変わらないといけないのは、はっきり言って、人事だと私は思っています。

 日本企業の人事部門は、非常にバックオフィス的な要素が強くて、上から来た指示を流すだけといった部分がありますから、そうするとイノベーションは起きません。その典型が先述の評価制度です。グローバル企業はどんどん評価制度を見直しています。最近では、グーグルが始めて、メルカリも導入した「OKR(Objectives and Key Results:目標と成果指標)」が有名ですが、あれも成功・失敗の紋切り型の評価制度を止めることが背景にはあります。イノベーションを起こすには、会社の仕組みから変えていかないといけないのです。

 戦略レベルの「知の探索」では、オープン・イノベーションが重要です。組織レベルでは、ダイバーシティ経営も大切です。繰り返しになりますが、イノベーションは知と知の新しい組み合わせですから、多様な人材がいたほうがいいです。日本でダイバーシティというと、女性管理職の比率を30%にするという謎の数値目標が入ってきますが、一体だれが決めたのでしょうか。女性の管理職はもちろん大事ですが、女性だけでなく、外国人やLGBTの方、障がい者の方が加わることで、本来的なダイバーシティが実現します。

 それからもう1つ、人脈レベルでは、「強い結びつき」より「弱い結びつき」のほうが、創造性が高まると言われます。弱い結びつきの人的ネットワークをたくさん持っているのが、いわゆる“チャラ男”です。ですから、私はよくチャラ男が大事だと言っています。日本の会社には、チャラ男とチャラ子がまだまだ足りていません。