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その時代によってリーダーの要件は異なる
リーダーとして成功し続けるには、優れた人格のみならず、スキルに幅と深さを持ち合わせているだけでは十分ではない。
一時として一定ではない事業環境を把握し、それに適応できる力がなければ、成功は一時的なものに終わる。また、産業史における金字塔と称される成功は、先見力を備えたリーダーだからこそ成し遂げられたものだろう。にもかかわらず、このような能力の重要性はあまり認識されていない。
ゼネラル・エレクトリック(GE)の1980年代と90年代にわたる素晴らしい業績は、ジャック・ウェルチという存在あったからである。これは、衆目の一致するところだろう。
就任した81年当時、ウェルチはまだ若輩で、経験不足、短気や無鉄砲さから、トップ・マネジメントには不適格であると思われていたが、前任者のレジナルド・ハロルド・ジョーンズが、賢明にも彼を自分の後継者に指名した。ジョーンズとウェルチは、まったく異なるタイプの経営者である。しかし、どちらも時代の申し子だった。
大学で会計学を学び、冷静沈着なジョーンズは、72年から81年までGEの舵取りを任された。不況とインフレのダブル・パンチに遭っても、彼は売上げでも利益でも高い成長率を達成した。合理的な計画と慎重な投資姿勢が何よりも重要だった時代にふさわしい経営者だったといえよう。当時はまた、規制が厳しかったが、彼は政治家のような物腰で、監督官庁との話し合いを有利に進めた。
ところが一転して、国際競争が激化すると、彼は「これからGEに必要なのは、環境変化に機敏に適応できる、自分とは異なるタイプのCEOである」と気づいた。激動の時代に企業を成長させるには、ウェルチのような型破りな人物こそ必要だったのだ。そしてウェルチ自身も、大きな変化の兆しを感じ取っていた。
いかに優秀な経営者でも、時代の流れを読めなければ、足をすくわれてしまう。ゼネラルモーターズのアルフレッド P. スローンのように、1920年代に今日の大企業経営の基礎をつくった巨星でさえ例外ではない。彼は30年代に入ると、経営の前線から離脱した。なぜなら、35年に結成されたUAW(全米自動車労働組合)と協議することが苦手だったからである。
それ以前の労働者たちに、経営者と交渉する力はほとんどなかった。ところが30年代に入ると、労働者と交渉できなければ経営者は務まらなくなったのである。このように労働者が力を持ったのは、アメリカ産業史上初めてのことだった。