優れたリーダーは意思決定スタイルを進化させる

 意思決定は、経営者の仕事のなかでもとりわけ重要である。そして大半のシニア・マネジャーが、情報の交換、各種データの検討、アイデアの創出、選択肢の評価、指示・命令、事後処理など、常に何らかのかたちで意思決定に関わっている。

 もっとも意思決定は、あらゆる階層のリーダーに要求される。優秀といわれるリーダー人材は、その職位にふさわしいスタイルを身につけている。たとえば、ライン・マネジャーであれば、製品の完成に集中する。これがサービスの現場であれば、迅速な問題解決に変わる。いずれにしても、ここで重要なのは行動力である。

 ただし、昇進して職掌が変われば、製品やサービスの企画開発、それを提供する方法について考えなければならない。新しいポジションで成功するには、新たなスキルや行動様式が要求される。つまり、情報の活用法にしろ、選択肢の案出と評価にしろ、これまでのやり方を見直さなければならないのである。

 さまざまな経営幹部にコーチングを提供してきた経験から申し上げると、野心的であるべきミドル・マネジャーが、豊富な知識と経験を有するシニア・マネジャーのごとく意思決定を下せば、出世コースから外れる可能性が高く、逆にシニア・マネジャーがライン・マネジャーのように振る舞うと同じはめになる。

 成功するリーダーと失敗するリーダーを分けるものは何だろうか。それを突き止めるために、我々は12万人以上に及ぶさまざまなリーダー人材について詳細に調査した(囲み「調査の概要」を参照)。その結果、成功するリーダーの意思決定スタイルは、昇進するにつれて変化していくことが判明した。しかも、共通点と一定のパターンが発見された。

調査の概要

 今回の調査は、コーン・フェリー・インターナショナルのデータベースを利用して実施した。同社のデータベースには、「フォーチュン100」企業から新興企業に至るまで、北米企業を中心に多種多様な業界の経営幹部から管理職、ビジネス・プロフェッショナルに関する情報が収められている。その規模はおよそ20万人以上に及ぶ。

 我々は彼ら彼女らの行動を評価し、これを「標準化[注]」した。本調査では、調査時点において5つの階層に分類されるリーダー人材12万人を対象とし、またその学歴や職歴、収入についても調べた。

 これらのリーダー人材の特性を分析したところ、各階層において成功するための行動特性が明らかとなり、また職位が高くなるにつれて、その特性がどのように変化していくかも明確に表れた。

 この調査結果は、けっして偶然の一致ではない。それを証明するためにコンピュータによって解析を試みたところ、その確率はゼロだった。この調査結果が偶然の産物である可能性は、少数点10桁以下で、10億回に1回以下であった。すなわち、今回の調査結果は推論ではなく、統計的事実なのである。

【注】
統計において、変数の単位を変換することで、平均値や標準偏差が特定の値になるようにすることを「標準化」(standardization)といい、その単位において表される数値を「標準得点」(standardized score:「Z得点」とも呼ばれる)と呼ぶ。なお標準化は、平均値を0、標準偏差が1になるように実施される。

 リーダーのなかには過去のやり方に固執して、あるいは自分の職位にふさわしくないアプローチによって失敗する人がいる。しかし、このような間違いに気づけば、軌道修正は十分可能である。

4タイプの意思決定スタイル

 どのように意思決定スタイルが変化するかを見る前に、まずどのようなスタイルがあるのかを見ておこう。我々の調査によれば、意思決定スタイルは、「情報の活用法」と「選択肢の設定」という2つの要素で区別できる。

 たとえば、情報の活用法で見ると、膨大なデータを精査したうえで意思決定するリーダーがいる。「マキシマイザー」(関連情報を可能な限り多く得ようとする人)と定義されるタイプだ。このタイプは、最善と確信できるまで熟考を重ねた末に意思決定を下すが、スピードと効率で劣る面がある。

 一方その対極には、要点を押さえたらさっそく仮説を立て、実行しながら検証していくタイプがいる。すなわち、ノーベル経済学賞を受賞したハーバート・サイモンが名づけた「サティスファイサー[注]」(必要最小限の情報で満足する人)である。サティスファイサーは、ある程度の情報が集まり、必要な条件さえ整えば、すぐ行動に移す。