
従業員の心の健康を保つことは、企業の重要な役割である。特に若年層はこの問題を抱えやすいと同時に、社内で自分の悩みや苦しみを打ち明けることを躊躇する傾向があるため、企業は若い従業員を積極的に支援すべきだと筆者はいう。本稿では、先進的な企業が実践している3つの取り組みを紹介する。
ナディア・フセインは、英国でもっとも有名なシェフの一人だ。2015年に料理コンテスト番組「ブリティッシュ ベイクオフ」で優勝して以来、米国の料理番組をはじめとするさまざまな人気番組のホストを務めたり、出演したりしている。だが最近は、メンタルヘルスの問題、特に長年、不安障害に苦しんでいたと公表したことでも知られるようになった。
現在30代半ばのフセインの体験は、重大な問題を浮き彫りにする。今日の労働人口の最若年層(18~30歳)は、特にメンタルヘルスの問題を抱えやすく、しかも、それに対処する準備がほとんどできていない。企業は彼らを支援できる立場にあり、ぜひとも支援に取り組むべきである。
私たちがアクセンチュアで英国の労働者3884人を対象に行ったアンケート調査から、労働者の95%が30歳までに、自分自身か友人、あるいは家族や同僚を通して、メンタルヘルスの問題を何らかの形で経験していることが明らかになった。働く4人のうち3人が自分自身のメンタルヘルスの問題を体験し、半数弱が自殺を考えたことや、自殺したくなったことがあった。
また18~30歳までの労働者は、それより上の年齢層に比べて約2倍、生活のプレッシャーを感じていることもわかった。借金の心配をしたり生活費の支払いに苦労したりすることが多く、それがいっそうのストレスとなっていた。また上の年齢層よりも、自分が問題を抱えていることを雇用者に伝えたがらない傾向があった。
最若年層の労働者はまた、仕事関連のプレッシャーやメンタルヘルスの問題に対処する準備が、ほとんどできていなかった。学校や大学は研修に力を入れているものの、26歳未満の労働者の10人中4人は、就職前に教育の一環として、メンタルヘルスのケアに関する情報やアドバイスを受けたことがないと報告した(40歳以上の労働者でも、そうした研修を受けたことがあると報告したのは10人中わずか2人だった)。
財務の観点からだけでも、企業が、若い従業員のメンタルヘルスのニーズに対処すべき理由はある。2017年、米国首相直下の独立審査委員会は、従業員のメンタルヘルスの不調が企業にもたらすコストは年間330億~420億ポンド(446億~567億ドル)と推定している。
もっとも徐々にではあるが、企業は、よりインクルーシブで多様性ある職場文化の形成という広い文脈からメンタルヘルスを考えるようになっている。
私たちの研究によると、メンタルヘルスの重要性を強調する企業では、従業員が仕事からよい影響を受けていると回答する傾向が、全年齢層においてほぼ4倍だった。とりわけ若年層の従業員では、最近メンタルヘルスの問題に直面したと答える傾向が約37%低く、仕事でメンタルヘルスの問題に対処できる、あるいは対処できたと答える傾向が2倍高かった(メンタルヘルス対策を支援する文化を持つ企業と、あまり支援しない文化の企業を見分けるのに使用した方法は、こちらを参照)。
私たちが調査過程で話をした中で、明確な形で若い従業員のメンタルヘルス対策に力を入れている経営者は少数だった。また企業が実際に、明確な形で支援を提供していても、そのことを知らない従業員も少なくないだろう。調査では、自分の職場にメンタルヘルスのプログラムがある、あるいはメンタルヘルスの支援が提供されていると確信を持って答えた人は、半数に届かなかった。
さらに憂慮すべきは、労働者の多く、とりわけ最若年層は、自分の悩みを開示したり助けを求めたりすると、社会人としての評判に傷がつくと不安に思っていたことである。
やるべきことは、たくさんある。正しい方向へとより迅速に進むために、先進的な企業が取っている対策を3つ挙げよう。