
コロナ禍を経て、多くの人が自分にとって仕事の意義とは何か、ひいては人生の意味とは何かを見つめ直してきた。これまで、キャリアの成功といえば「出世の階段」を上ることを意味していたが、現在のように何もかも流動的な状態が続く中では、従業員の変化に合わせて、組織もキャリア形成に関する考え方を転換させなければならない。そこでカギとなるのが「キャリアポートフォリオ」という概念だ。本稿では、組織がこの概念を導入し、従業員の仕事と人生の成功をサポートしていくために、何が必要かを論じる。
潜在能力を最大限に引き出すには、何をすべきか
この2年半は、職場の流動性に関する学びに満ちた期間だった。どの週、どの月、どの四半期をとっても、新たな、しかも往々にしてディスラプティブな変化が起きては、リーダーや組織に衝撃を与えた。
景気後退が迫っているか否か、あるいは雇用する側と雇用される側のパワーバランスが変化しているか否かにかかわらず、変化の大波は今後も押し寄せ続ける。いかなる未来が待ち受けているにせよ、人々が仕事と人生の両方で成功するために、企業にはどのような支援ができるだろうか。
今日の従業員はうんざりしている。彼らが追い求めているのは、よりよい何か、だ(時として、単に新しいものの場合もある)。相手に見てもらい、評価してもらい、耳を傾けてもらうことを望んでいる。そして、平等、尊厳、安全、バランス、柔軟性、自律性を欲し、成長や学習、有意義な貢献、充実感を得られる機会を探しているのだ。
欲張りすぎているかのように聞こえるかもしれない。だが、彼らの潜在能力を最大限に引き出し、世界をよりよい場所に変える手助けをしようとするならば、これらは実にささやかな望みにすぎない。
とはいえ、組織やHR部門にとって、この状況を乗り越えるのは大変なことだ。企業は人材獲得競争に勝利しなくてはならないが、その戦場はほぼあらゆる側面において変化している。
いまや多くの人が、ほかの誰かが築いた「出世の階段」を上ることへの興味を失い、それに刺激を覚えなくなっている。収入を得たり、有意義なキャリアを築いたりする方法が、これほど数多い時代は初めてだ。
問われているのはもはや、「何をするか」ではなく、「どのような人になりたいか」である。人材獲得もキャリア開発もプロフェッショナルとしてのアイデンティティも、すべてが流動的な状態にある。
このような状況に対して、個人と組織の優先順位をすり合わせ、戦略目標と自己実現目標を一致させ、不確かな現在とそれ以上に不確かな未来を重ね合わせられる解決策が一つある。それは、キャリア形成に関する考え方を転換することだ。つまり、キャリアを「出世の階段」ではなく、キュレートするための「ポートフォリオ」と見なすべき時期が訪れているのである。