責任を共有し、それに合わせた設計を行う

 最終的には、従業員一人ひとりが自身のポートフォリオに責任を持ち、それぞれに保有することになる。仕事とは異なり、キャリアポートフォリオが奪い去られることはけっしてない。一方で雇用主がポートフォリオの中身について多大な違いを生み出すことはできる。そして、その多くは、組織が「何を」「どのように」設計するかにかかっている。

 雇用主には、従業員それぞれのプロフェッショナルとしての成功に対する責任はないが、成功に向けた組織の「足場」づくり、つまり、自社の人材が成功できる文化や状況を整える責任はある。

 新たな人材を惹き付け、長期的に維持したいと思うならば、出世の階段を上ることではなく、自分だけのキャリアポートフォリオをキュレートすることを目指す人々のために、ジョブディスクリプション(職務記述書)や組織図、昇進と成長のオプション、さらにはKPI(重要業績評価指標)を設計することが欠かせない。

 たとえば、あなたの組織では、公式の職務範囲を超えたスキルや関心を共有し合う仕組みや機会を提供しているだろうか。それぞれの従業員が、自分が身に付けたいと思う新たなスキルを見出し、それらのスキルを開発し、目標を追求することができる明確かつ容易な手段はあるか。

 同じチームの中に、自分がアクセスできると思っていたスキルよりもはるかに多くのスキル、それも驚くようなスキルを簡単に見つけられるかもしれない。この種の「異種交配」は、イノベーションの原動力になるだけでなく、往々にして隠れされていた多様性を浮かび上がらせ、チームスピリットを強化してくれるはずだ。

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 いまや、「出世の階段を上る」ということは、「これまでずっとこうしてきたから」という意味しか持たない時代だ。換言するならば、物事を刷新することが切に求められている。これまでのやり方では、この先に進むことはできない。変化に対してオープンで、変化に対して頑なではなく、流動的な世界にフィットするモデルとナラティブが必要だ。

 キャリアポートフォリオというレンズへの転換は、それぞれが自分のプロフェッショナルとしてのナラティブをアップデートする機会を与えてくれる。同様に、組織が文化や期待、設計を見直すための実用的なツールとしても、極めて有効だ。

 組織が人材を完全に理解し、未来の働き方について真の理解が進めば、その組織が関わるエコシステム全体がレベルアップするだろう。


"Stop Offering Career Ladders. Start Offering Career Portfolios," HBR.org, August 10, 2022.