面接で素晴らしい人材に出会えたからといって、その人が求めているポジションに最適かどうかはわからない。なぜなら採用面接の場では、学歴や経歴、あるいは魅力的な外見や巧みなトークによって、本来見極めるべき必要な資質やスキルから焦点が外れてしまうことが少なくないからだ。本稿では、そうした第一印象や直感に頼るといった採用の落とし穴を避け、短い時間の中で応募者の資質を適切に評価するためのヒントを伝授する。


 ジェームズは、大手クリニックを率いる眼科医だ。医療に情熱を燃やす彼は、クリニックの経営業務を任せられる人を雇いたいと考えた。

 200通以上の履歴書に念入りに目を通し、身元調査を行い、最終的にマイクを採用することに決めた。マイクは最高水準の大学でMBAを取得し、新規採用者に必要なすべての条件を満たしているように思われた。

 ところが数週間も経たないうちに、ジェームズはマイクの採用は大失敗だったことに気づいた。

 面接で素晴らしく有能に見えたマイクは、仕事を始めて1ヵ月もしないうちにオフィスを混乱に陥れた。スタッフとのコミュニケーションはもっぱらメールかスプレッドシートのリストに限られ、会議に出席している間もスマートフォンを操作している。スタッフが会計や財務の専門用語を理解できないと、あからさまに呆れ顔をしてみせた。

「面接の間、私はマイクの経歴や財務の知識に心を奪われていました。彼は自信に満ちあふれていたし、有名校の出身でした」と、ジェームズはのちに語った。「私はマイクの一面しか見ていなかったのです。そして、面接時に見逃していた面を毎日オフィスで目にすることになったのです」と彼は嘆いた。

 この状況を正すのに1年以上かかり、ジェームズは自分の判断力にすっかり自信を失ってしまった。実は、私たちが話を聞いたリーダーのほぼ全員が、やはりキャリアのどこかの時点で採用に失敗したことを認めている。その代償は、時間とお金、そして精神的苦悩の面で高くついたという。

 第一印象は、最悪な採用に直結する危険な落とし穴になりうる。いったいどうすれば、わずか30分程度の面接で、うわべの印象にとらわれずにその人の本質を見抜くことができるだろうか。

 何百通もの履歴書に目を通し、何十人との面接を行って候補者を絞ろうとするときは、表面的に見て判断せざるをえないかもしれない。だが、そうした直感的な反応では、新規採用者に対して無意識のうちに抱くイメージに左右され、判断を誤ることが少なくない。

 ジェームズの場合も、マイクの経歴に目を奪われ、日々の業務で必要となる適切なスキルや特質に焦点を当てなかった。スタッフの意欲を引き出して指導する能力があるかどうかを、厳正に評価しなかったのである。