中小企業が取り組むべき4つのテーマ

佐々木「中小企業は今後、本気で変革しないと生き残れません。では何をしたら良いのか? 私の考える答えは『人が時間をかけてやることと、ツールで効率化を図るべきところを明確化する』です。

 方向性は4つ。そのうちの2つを人間が手間ひまかけて行い、2つをツールで自動化して効率化する、つまり、メリハリをつけようということです(図1)。ここからは、その4つをfreeeでどのように実践してきたかを紹介します。

1.本質をとらえた価値提供

 本質的な価値提供をしていくためには、単にお客様の要望に応えるだけでなく、自分たちで突き詰めて考えていく必要があります。そのために必要なことは『観察』です。

 例えば、私たちが『会計freee』をリリースする際、ヒアリングの段階で「経理を自動化するソフトではなく、速く入力できるソフトが欲しい」という声が届きました。つまり、その時点での顧客のニーズは「入力を速くすること」でした。ただ、いろんな観察やリサーチによって、経理業務の7割がルーティン業務でそれを自動化できるということが分かり、作業自体を自動化することに価値があると私たちは判断しました。

 当初はニーズが存在していないように見えても、コストをかけ、ユーザーの分析を行い、常に製品を改善し続けることで本質的な価値を提供することができます。結果的にはそれが、事業の急成長につながりました。

2.人が集まる組織作り

 人が集まる組織を作る上では、カルチャーへの投資が必要となります。私たちの中では『価値基準』という言葉があり、それらは今、社内で『マジ価値』『ジブンゴーストバスター』など、造語に近い言葉で表現されています。

 組織が大きくなる前、会社の価値基準の重要性を鑑みて、もっと堅い言葉で社内に掲げたことがありましたが、結果として一切広まりませんでした。

 若い社員に相談をすると、彼らはそれらの言葉をキャッチーなフレーズにしてポスターを作りました。するとそれらの言葉は急速に広まりました。そこから学んだことは、社員が自分たちで作ったキャッチフレーズは覚えやすく、独自性を感じ、日々の仕事に使う言葉になっていくということです。

 今でも年に一度は社員総会で議論の場を設けてボトムアップで、価値基準をメンテナンスしています。

 また、freeeでは上司のことを『ジャーマネ』と呼んでいます。これは芸能人のマネージャーに対して使われていた言葉で、それこそが私たちの考えるマネージャーのあるべき姿だと考えます。一人一人の意志や強みをしっかりと尊重しながらマネジメントしていく。手間がかかりますが、あえてそこに投資していくことにより、働きがいのある環境になっていきます。中小企業だからこそ柔軟に対応することができると考えていますし、このような考え方を採用していくことによって、『人が集まる組織づくり』を実現してきました。

3.人の力の最大化

 これまで人が当たり前にやっていたことをツールで効率化していくことができるようになりました。弊社の例ですが、中小企業にソフトウェアを提供しているというと、『全国津々浦々まで行かなくてはいけなくて、大変でしょう』と言われますが、そんなことはありません。

 実際に足で訪問することが大事なわけではないのです。テクノロジーを使って、たとえば電話やテレビ会議でやりとりをし、画面共有をして理解を深めていく(インサイドセールスの活用)。こうすることで効率的に価値を届けることができます。

 カスタマーサポートではチャットを活用しています。当初はメール+電話でしたが、連絡してきたユーザーが誰で、どんな状況かを把握するまでに時間がかかる。チャットに変えたことで、カスタマーセンターのスタッフはユーザーを瞬時に識別でき、迅速に問題解決につながるようになりました。このようにツールによって業務価値を高め、省力化と同時に『人が働いている』ことの価値を高めています。

4.生産性の可視化

 freeeでは、自社製品を活用して、これまでの財務諸表的な見方だけでなく、どういうアクティビティ、つまり投資をしているのかをリアルタイムで把握できます。その投資によって、どのような効果を得られているのかを分析することで、常に投資を改善しています。バックオフィスだけでなく、フロントオフィスでもツールを活用して生産性を可視化しています。これにより、さらに効率化をしていくことで、人が時間をかけるべき、本質的な価値提供や組織への投資に力を入れることができていきます」