3.IPO:freeeの場合はあくまで通過点

東後「そしていよいよIPOです。IPOでは、上場後の成長戦略を最優先にしました。2018年12月から準備を始め、19年12月にIPOですので、ちょうど1年。他社と比べても相当速いはずです。

 北米のSaaSビジネスに対する理解度の高さから、(日本国内市場だけでなく海外でも株式を売り出す)グローバルオファリングを選択し、北米の投資家にもアプローチできるスキームにしました。海外の比率が70%と高いのも特徴的な部分です。(日本のベンチャー企業のIPOで)過去にここまで海外の比率を高くシフトさせた事例はほとんどありません。それほど海外で需要があったということです。

 オファリングサイズは日本のIPOでは比較的大きく、約370億円。一番の目的は成長資金の確保です。IPO直後、公募増資をしなくとも当面の成長に必要な資金を確保することは重要でした。また、グローバルオファリングを想定する時に、大事なポイントは流動性です。海外の機関投資家の多くはある程度のサイズ感がないと投資してくれません。細かくたくさん投資をしてしまうとマネジメントコストがかかってしまうためです。

 資金調達で大事にしていたのは、エクイティストーリー(注:会社の魅力を投資家などに伝えるストーリー)の構築です(図3)。投資家から必ず聞かれるのは、freeeのミッション、ビジョン、そして他社と異なるプロダクトの特性です。

 マーケットでのポジショニングとして、日本で唯一のスモールビジネス向けのクラウドERPだということをしっかりと伝える。市場規模が大きく、かつクラウド会計ソフトの浸透率が低いのでまだまだ伸び代がある。財務モデルとして安定性が高く、かつ、顧客獲得の生産性も非常に高い、といったことをシンプルに話しています。こういったストーリーを説得力をもって伝えることができるかどうかが、IPOでの成功に大きく関わります。

 また、自社のプロダクトをフル活用し、短期集中してオンスケジュールでやりきったところも大事なポイントだったと思っています」

自社プロダクトを使いこなしてクラウドで
決算や労務審査をやりきる

 予定通りのスケジュールで上場させるため、freeeでは徹底的な短期集中型で審査対応をしてきたという。同社ならではのポイントが、自社プロダクト「会計freee」を使いこなして、クラウド完結で決算をやりきったことだった。

 また、労務管理についても、自社プロダクト「人事労務freee」を利用した。東証審査の指摘事項もゼロで、問題なく審査を終えることができた。IPOでは、かなり厳しい労務的なチェックが入ることが多いことに鑑みると、非常に珍しい事例といえる。

 スモールビジネスをテクノロジーで支える──freeeはそのモットーを、自社の上場で自ら実践してみせたのだ。

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