理想ドリブンによって、理想から成長戦略のスキームを考える

freeeの創業は、2012年7月。創業から7年半弱での上場ということになる。freeeの資金調達に携わり、同社の成長を財務面から担っているのがCFOの東後澄人氏だ。どのような財務戦略で資金調達をしてきたのか、創業からIPOまでステージごとに分けてその狙いを語ってもらった。

freee株式会社
取締役 CFO
東後澄人 SUMITO TOGO
東京大学大学院終了、工学修士。JAXA、マッキンゼーを経て、Googleで中小企業向けマーケティング、Google Mapsを担当した後、freeeのCOOに。現在は同社CFO。

東後澄人「財務戦略は、事業のボトルネックにも、また成長のドライバーにもなり得る基盤です。特にfreeeのようなSaaSビジネスでは、資金調達が成長にとって一番のボトルネックになります。そこをしっかりと確保することができていれば、成長を加速することができます。

 なぜ資金調達が重要なのか。私たちのようなサブスクリプション型のビジネスモデルでは、最初に資金が必要で、お客様に継続的にソフトウェアを利用していただくことではじめて回収できます。その時間的なギャップが生まれるところを補填する資金が、財務上必要になってきます。成長のための資金を先行投資して、その分をしっかりと後から回収していくビジネスモデルだからこそ、積極的な資金調達が重要になるのです。

 freeeではIPOを含めて今まで合計9回の資金調達をしてきました。累計で283億円が調達されています。アーリーステージ、レイターステージ、IPO、それぞれのフェーズによって特徴があります(図2)。

1.アーリーステージ:ビジョンの共有の重要性

 まだプロダクトもない時期から、リリース間もなくのほとんど売上が立っていない時期までがアーリーステージになります。この頃は調達した資金の大部分を、開発投資に充てています。

 このステージでの特徴は、海外のVC(ベンチャーキャピタル)からの資金調達がほとんどだったことです。2012年当時、日本ではまだ『SaaSって何?』というような状況でした。しかし海外、特にアメリカでは成功モデルがすでにたくさんあったので、成長戦略やマーケットのポテンシャルが伝われば、適切に評価してもらうことができました。

 このステージで大切なのは、投資家との間でビジョンの共有がどれだけできるか、そしてビジネスモデルを正しく理解してもらえるか。freeeが目指すのは、日本の全てのスモールビジネスに対して、クラウド上に人工知能CFOがいるような世界をつくることです。このビジョンを投資家にしっかりと伝え、共有すること。そして一歩先を見て、少し多めに資金を調達することが、このステージでは重要です。

2.レイターステージ:コミットメントを高める資本提携

 市場の中でfreee自体がある程度認知され、評価をしてもらえるようになってきた時期です。資金調達の金額が上がってきたこと、また投資家の顔ぶれがガラッと変わり、(日本国内の)さまざまな事業会社にも投資家として参入していただいているのが大きな特徴です。

 収益ができ、ビジネスの基盤ができてきた中で、そこからどう成長していくか。他社との連携が大事になってくるフェーズです。この頃から、金融機関や会計事務所との連携機能、中堅法人向けのエンタープライズプランなどの開発に注力し始めました。

 またこのフェーズでは、資金調達した相手の事業会社と一緒に行う施策を増やし、新しい機能をリリースしています。リクルートのPOSレジサービス『Airレジ』との連携や、セールスフォースとの連携、LINE@ユーザー向けに会計freeeを提供する『LINE店舗経理』などがそうです。

 これらのケースでは、事業提携することが前提で、より関係を密にするために資金提供を活用する、提携における双方のコミットメントを高める、という考え方で資金調達をしました。

 また、プライベートラウンドで上場会社に投資する機関投資家に入っていただいたことも特筆すべき点です。次のフェーズであるIPOも視野に入れながら、上場会社に投資する機関投資家はどのような目線で事業を評価するのかということを学び、経営に反映させることができました。著名な投資家がプライベートラウンドから入っていることは、他の投資家からの信頼感につながりますし、freeeのビジネス自体に興味をもっていただきやすい環境にもつながりました。今振り返れば、もっと多くの機関投資家にリーチしてもよかったと思っています」