組織改編は戦略にマイナスである

 現代の経営史を振り返ってみると、企業は一貫して、組織を戦略に従わせることによって価値を創出しようとしてきた。

 たとえば、19世紀に大量生産が根づくと、業務オペレーション、販売、財務といった主な職能を本社に集めて、おびただしい規模の経済を引き出した。その数十年後には多角化を掲げ、新しい事業分野に次々と進出し始めると、今度はこれとは対照的な組織モデルを考案した。ゼネラルモーターズ(GM)やデュポンなどが、製品別あるいは地域別の事業部制を採用したのである。かたや事業部制には、小さい事業部は規模の経済を享受できないという弱みがあるが、その半面、小回りが利き、市場に適応しやすいという強みも持つ。

 職能別の中央集権組織と、製品や地域別の分権組織という、これら2つの組織モデルはどちらも長く存続しているが、それは事業組織の進化が緩やかだったからである。そのため、製品別事業部制などは、50年以上もの間、組織モデルの主流であり続けている。

 とはいえ、20世紀も最後の四半世紀を迎えた頃には、競争が激化するのに伴い、職能別の中央集権組織、事業部制共に欠点が浮き彫りになった。このため、企業価値を最大化させる新しい組織モデルが模索された。

 多くの多国籍企業が選んだのが、マトリックス組織だった。その背景には、職能別組織の強みである規模の経済、事業部制の強みである柔軟性を同時に生かしたいという意図があった。しかし、マトリックス組織には、全社の足並みを揃えるのが難しいという短所があった。マトリックス組織のミドル・マネジャーは、2人の上司に仕えるという、やっかいな立場に置かれ、また仕事の遅れや社内トラブルが生じがちだった。

 1990年代に入ると、リエンジニアリングがブームとなり、また別の組織モデルが生まれた。従来の職能別、製品別、地域別ではなく、多種多様なビジネスプロセスを切り口に組織を再構築するというものである。

 しかしこの形態もやはり、各事業活動の利害を調整し、全体の足並みを揃えるのが難しいという問題を抱えていた。ビジネスプロセス、職能、製品グループなど、何を軸に組織を分けたとしても、タコつぼ化は避けられないのである。

 その後、既存の境界を超えて活動を展開する「バーチャル組織」「ネットワーク組織」といった形態も耳にするようになった。さらには、その時々のビジネスチャンスに合わせて分解と再編を繰り返す「ベルクロ組織」なる形態も登場した。なおベルクロとは、着脱が容易なマジック・テープのことである。