セグメンテーションの弊害

 毎年新発売される消費財は3万種類に上るという。そしてそのうちの9割以上が失敗している。マーケティングのプロと呼ばれる人たちが膨大なコストを投じて、消費者は何を欲しているのかを理解しようと努力した挙げ句がこのざまである。

 何かが間違っているのだろう。市場調査のスタッフがあまり賢くないからなのか。広告代理店にセンスが欠けているからか。いまの消費者は理解するには難しすぎるのか。我々はそうではないと考えている。我々が学んだ市場を細分化する方法、ブランドを構築する方法、顧客を理解する方法など、旧来のマーケティング・パラダイムが徐々に崩壊しつつあるのだ。

 このように見ているのは、何も我々だけではない。そのような判断を下す世界一の適任者は、おそらくプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のCEO、アラン G. ラフリーだろう。実際、彼ですら、こう言っている。「我々は消費者へのマーケティングを刷新しなければなりません。新しいモデルが必要なのです」

 顧客に何らかのメッセージを訴求するブランドを育てるには、顧客に何らかのメッセージを訴求する商品にそのようなブランドを張りつける必要がある。そのためには、顧客の実生活を反映させたセグメンテーション(細分化)が不可欠となる。

 我々は本稿で、市場セグメンテーションの原則を再構築する方法を提案する。顧客が一貫して価値を見出すような商品をどのように開発するかについても言及したい。そして最後に、収益性と持続性を伴った成長を実現するうえで、価値の高いブランドをどうすれば創造できるのかについて説明する。

 マーケティングの泰斗として名高いハーバード・ビジネススクール名誉教授、セオドア・レビットは「消費者は4分の1インチ径のドリルを買いたいのではない。彼らがほしいのは4分の1インチの穴だ」と学生たちに教えたものだ。我々が知っているマーケターたちは、だれもがこのレビットの知見に賛同する。しかし彼らは、うなずくそばから、ドリルの種類と価格で市場をセグメントしているのだ。

 穴の大きさは測らずに、ドリルの市場シェアを計算する。肝心の穴ではなく、自社のドリルの特徴や性能をライバルのものと比較評価する。そして、競争力の高い価格と市場シェアの拡大につながると信じて、新たな特徴や性能をあれこれ追加する。マーケターに任せると、往々にして問題の解決を見誤る。つまり、顧客ニーズと無関係な方法で商品を改良してしまうのだ。

 顧客セグメンテーションも、これとどっこいどっこいである。マーケターたちは、法人顧客を「大」「中」「小」と企業規模で分類したり、消費者を年齢や性別、ライフスタイル別に無理やり類型化したりした後、そのセグメントを代表する顧客のニーズを洗い出し、そのニーズに対応した商品やサービスを開発しようとやっきになる。

 しかし、顧客は自分の意思を曲げてまで、自分が分類されたセグメントにおける平均的な嗜好に合わせて行動することはない。したがって、マーケターがデモグラフィックス(人口統計)に基づいて各セグメントを設定し、これらセグメントにおける典型的な顧客ニーズに対応した商品を設計しても、ある個人がその商品を買うか否かは知るよしもない。マーケターにできることといえば、購入の可能性を確率で示すのが関の山だ。