現場主導での業務改善や顧客対応などは日本企業の強みであるが、一方で、わが国は労働生産性の低さという深刻な課題にも直面している。データの世紀、AI(人工知能)の時代といわれる今日において、現場の強みを活かしながらデータ活用による生産性向上や企業変革をどう実現していくべきか。NTTデータにおいて企業のデジタル変革を支援するAI&IoT事業部長の谷中一勝氏と、検索とAIを活用したデータ分析ソリューションを提供する米ThoughtSpot(ソートスポット)の日本カントリーマネージャの有延敬三氏に聞いた。

現場でのデータ活用による意思決定が、DX成功の鍵を握る

――ソートスポットが、米国のハーバード・ビジネス・レビュー・アナリティクス・サービス(Harvard Business Review Analytics Services)に委託した調査レポート「新たな意思決定者」(原題:THE NEW DECISION MAKERS)では、データからビジネス上の有益な価値を得るうえで、フロントラインワーカー(現場の最前線で働く従業員)が果たす重要な役割について掘り下げています。発行のタイミング(2020年5月)が、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的流行)とたまたま重なりましたが、企業が成功するためには現場への権限委譲と現場のデジタル装備が欠かせないと結論づけている調査レポートの時代的意義について、どうお考えになりますか。

有延敬三
ソートスポット
日本カントリーマネージャ

有延 「新たな意思決定者」は、米「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌の読者層を対象に行った調査とフロントラインワーカーのデジタル装備が整っている先進企業へのインタビューを基にまとめたものです。その内容はとても示唆に富んでおり、たとえば、フロントラインワーカーのデータドリブンな意思決定を可能にすることと自社の成功の間に明らかなつながりがあると、調査対象組織の90%近くが回答しています。

今日のビジネス環境において企業が成功するためには、データをより効果的に活用する必要があることは、各方面で繰り返し指摘されているとおりです。中でも大切なのは、フロントラインワーカーがデータドリブンな意思決定ができるようにすることです。

 なぜなら、業種や地域に関わらず、企業の成功を左右する顧客と最前線で接しているのは彼ら、彼女らであり、業務プロセス改善によるコスト削減や、よりよい顧客体験の提供などを担っているのもフロントラインワーカーだからです。

 新型コロナのパンデミックで世界経済が停滞する中で、フロントラインワーカーが果たす役割がますます大きくなっています。VUCA(変動、不確実性、複雑、曖昧)という言葉で表現される先行きの不透明さは、パンデミックによって一層深まっており、予期しないことが現場で次々と起きています。いま何が起きているのかをデータで客観的に把握し、それを可視化して、現場で迅速かつ的確な判断に役立てていかないと、企業は先行き不透明な状況に対処することはできません。

谷中一勝
NTTデータ
AI&IoT事業部長

谷中 私が責任者を務めるAI&IoT事業部では、デジタルテクノロジーによるデータ活用と、それを通じた顧客企業のDX(デジタルト・ランスフォーメーション)を支援しています。現場の最前線によるデータドリブンな意思決定が、DX成功の鍵を握るという点は、私たちも企業支援を通じて日々感じているところです。

 DXのロードマップは、大まかにいうと3つのステップで構成されます。特定部門の特定課題に対して、デジタルテクノロジーによるデータ活用で課題解決を実現するのが第1ステップ。DX推進組織やデータ分析基盤などを整備して、複数の部門で課題解決を図るのが第2ステップ。そして、データ分析基盤をセルフサービス型に進化させ、各部門のビジネスユーザーがみずからデジタルテクノロジーやデータを活用して日常的に課題解決を実践する、いわばデータ活用の民主化を実現するのが第3ステップです。

 国内のDXの進捗状況を見ると、多くの企業が第1ステップに取りかかっており、一部の企業が第2ステップに進んでいます。第3ステップにまで進むには、現場のビジネスユーザーのデータ活用力の向上と自律的な判断を実現し、データ活用を組織全体に根付かせることが不可欠で、それは「新たな意思決定者」の指摘とも共通しています。