短期的な視点と長期的な視点をいかに組織に埋め込み、 両立させるか

── こうした大きな変化に際して、企業はどう経営に取り組むべきでしょうか。
より長期的な視点と短期的な視点、2つの視点とその両立が求められると思います。日本企業においては、中期経営計画の3〜5年というタイムスパンを重視し、長期ビジョンが明確でない場合が少なくありません。しかし両極化の時代の企業経営では、足元の変化に機敏に対応する短期的な視点と、10〜20年先を見据える長期的な視点を併せ持たなくてはいけないのです。
── 短期と長期という2つの視点を持つためには、何が必要でしょうか。
不確実性が高まる両極化の時代において未来を語るのは難しいことですが、不確実が増大するからこそ、社会における自社の存在意義(パーパス)を明確にし、それに基づいたビジネスのグランドデザインを明示することが重要です。というのも、長期的な視点で持続可能なビジネスの未来像を描き、それをステークホルダーと共有することができれば、企業評価が向上するからです。これは企業活動のよりどころになるものですから、もし経営トップが代わっても継承されなくてはなりません。そのためには価値観を同じくする次代のリーダー層の育成も持続的経営の大きなテーマになります。また、組織全体のPDCAサイクルをパーパス実現のための長期的な時間軸を中心としたものに変えていく必要があります。
── リーダーの役割が問われます。
私は、両極化の時代の企業経営には2種類のリーダーが必要と考えています。現場を回すリーダーと、事業ポートフォリオ全体を最適化するリーダーです。現場を回すリーダーにおいては意思決定のサイクルを短期的に素早く回していくために、現場に権限移譲をして、機動的に対応していくことが求められます。一方、事業ポートフォリオ全体を最適化するリーダーにおいては、社会課題や企業全体の方向性を踏まえて長期的な変革を断行することが求められます。リーダーシップにおいても短期と長期、まさに両極的な役割が求められ、この2つを組織としてつないでいかなければなりません。そのためには、短期と長期2つの機能を混同することなく、この両者をパーパスでつないでいくことが重要でしょう。
両極化の時代においては、組織を率いる立場の役割も両極を成し、中間管理職の機能は徐々に失われていきます。そして、ボトムアップでもなく、トップダウンでもない、両者のバランスを取りながら全体を最適化していく仕組みを構築する必要があります。