分析力は競争優位の源泉

 キラー・アプリケーションの威力は、だれもが知るところである。これまで、アメリカン航空の電子予約システム、オーチス(エレベーター製造)の予測メインテナンス・システム、アメリカン・ホスピタル・サプライのオンライン受注システムなど、革命的なアプリケーションが登場しては、これらの企業の売上げとブランドを飛躍的に高めてきた。

 これら先端的なアプリケーションは、他社にすれば垂涎の的であり、データの蓄積と活用を通じて顧客の意識に影響を及ぼしたばかりか、従来を大きく上回る水準へと業務の最適化を推し進めた。ITは、単なるツールから戦略的な武器へと昇華したといえる。

 キラー・アプリケーションを開発するに当たって、競争優位が最も期待できそうな分野を1つ選び、そこに全エネルギーを傾ける企業が多い。ところが、新しいタイプの企業はより高い次元を狙っている。

 アマゾン・ドットコム、ハラーズ・エンタテインメント、キャピタル・ワン、ボストン・レッドソックスといった組織が成功を収めているのは、業界屈指の分析力を幅広い分野で活用しているからだ。一言で言えば、これらの企業は組織そのものを「キラー・アプリケーションの集合体」へと変容させることで、勝利への道を切り拓いてきたといえる。

 みんな分析力を高めようと、しのぎを削っている。今日の産業界は、膨大なデータに恵まれ、「データ・クランチャー」(優れたデータ処理能力が売りのコンピュータやソフトウエア)も多いため、分析力を高めることは難しくはない。ただし分析力の強化は、それが可能だからではなく、時代の要請なのだ。

 現在、たいていの業界の大半の企業が似たような技術を用いて、似たような製品を提供している。それゆえ、差別化のポイントとして残されているのが、まさしくビジネスプロセスなのだ。「分析力で勝負する企業」(analytic competitor)は、ビジネスプロセスの価値を最後の一滴までしぼり取ろうという姿勢である。

 たとえば、顧客がどのような製品を望んでいるのかについては、どの企業も理解しているのではないか。しかし、分析力で勝負する企業はそれに加えて、どれくらいの価格ならば顧客が受け入れてくれるのか、顧客が一生の間に購入する数量はどれくらいか、顧客が購買量を増やす理由は何かといったことまで把握している。

 また、人件費や離職率だけでなく、従業員が利益にどれくらい貢献しているのか、あるいは破壊しているか、従業員一人ひとりの成績と給与の関係についてもつかんでいる。さらに、在庫が減る時期が読めるだけでなく、デマンドチェーンとサプライチェーンで発生する問題を予測し、在庫水準を抑えながら受注率を高く維持することもできる。

 分析力で勝負する企業は、以上のような活動に組織的に取り組んでいる。最重要戦略の一環として、経営陣はもちろん、あらゆる階層の意思決定者に分析力を重視することが徹底されているのだ。