両極化の時代こそ日本社会や日本企業の強みが生かせる時代

── 書籍の中では、「日本の強みの再定義」を強調されていらっしゃいますね。

 そうです。前述の調査結果を見ても日本企業の状況は厳しい部分はありますが、私は逆にそれを好機と捉える見方をすべきだと思うのです。ポストコロナに加速化する両極化の時代こそ、日本の強みが生かせると考えています。

 では日本の強みとは何なのか。一言で言えば「最適化する力」だと思います。

 私は昨年、経済同友会で、2045年に向けて掲げる変革のビジョン『ジャパン2.0』の策定にメンバーとして関わりました。ここでは、「日本の強みとは何か」についてさまざまな日本の経営者と議論し、結果的に導き出されたのが「最適化する力」というキーワードです。

 日本の経済社会の変革の歴史を振り返れば、外部から異質なものを受け入れ、それを自分の中に取り込み、当初とは異なる新たな形に変遷させながらも落としどころを見つける、という最適化するプロセスを繰り返しながら発展してきています。

 代表的な例でいえば、日本の製造現場で行われている手法で、元来異なる考え方を柔軟に吸収して1つにまとめ上げる「擦り合わせ」などは象徴的です。それ以外にも「世界一品質に厳しい」日本の消費者の存在も特筆すべきだと思います。

 日本では作り手(生産者)と使い手(消費者)という立場の違う双方が一体となって、「廉価で高品質」や「和洋テイストの融合」など複雑で相対立する概念を融合させ新たな価値「ジャパンクオリティー(日本品質)」を生み出してきたのです。このように、一見相反する「両極なるもの」から多面的・重層的なつながりを構築することは日本の伝統的な強みです。

 私は、これらの背景には文化的素地も深く影響していると考えています。例えば、古くは浄土真宗僧侶・清沢満之の「二項同体」という概念もその一つです。二者択一、どちらかを切り捨てるという二項対立の概念ではなく、2つながらの関係に注目し俯瞰的に一体化するものの考え方で、変遷を遂げつつも現在の日本社会や組織に一定の影響を与えています。このような長年蓄積された日本の文化的要素も、両極化の時代においては強みになり得ると考えているのです。

── 日本企業がこの強みを生かして両極化の時代を乗り越えるための処方箋はありますか。

 まず取り組むべきは、両極にあるものを多面的につなぎ合わせ、一体化していこうとする経営モデルへの転換です。経済価値と社会価値、リアルとバーチャル、グローバルとローカル……。こうした両極の価値を経済価値に変える戦略的発想を組織全体に行き渡らせなければなりません。

 そのためにデジタル・テクノロジーの活用は欠かせません。なぜならば、デジタル・テクノロジーの本質に「データを介して異なる何かをつなぐこと」があるためです。先に述べた日本の強みも、現在のままではこの先の時代は生き残れません。遅れがちな日本企業のデジタル化、データを可視化し、利害を超えてオープンかつグローバルにつながる世界をつくるdXの取り組みを加速することによって、日本社会や組織の持つ潜在力が初めて生きてくると思います。

 コロナショックで両極がより拡大している今こそ、自社の強みを再定義し、自分たちのありようを最適化し、リフレッシュする。日本企業の真の意味でのトランスフォーメーションはそこから始まるのではないでしょうか。