注目すべきは「D」ではなく、「X」
セッション後半は、日経BP総合研究所フェローの桔梗原富夫氏を招いて対談が行われた。
桔梗原氏が「DXという言葉を見聞きする機会が増えているが、企業や人によって意味合いは違う。DXをどう捉えているか」と問いかけると、今井氏は「DXの『X(トランスフォーメーション、変革)』に注目している」と切り出し、そのうえで「事業環境の変化に伴い、企業はこれまでとは違ったこと=変革をしないといけない。その変革をテクノロジーでサポートするのがDXだ」と答えた。
コロナ禍におけるテレワークの浸透とDXとの関係について今井氏は、「テレワークの一番のポイントは、離れていてもこれまでと同様に仕事ができることが確認できたことだ。一方で、社員の働きぶりをどう評価するかという新たな課題が浮き彫りになった。成果に基づいた人事評価がいやおうなく求められるようになり、経営を変質させる必然性が生まれた。テレワークだけではDXとは言えないが、人事評価の仕組みやワークフローにまで踏み込むことでDXになる」と話した。
また、デジタル技術を使って、新しいビジネスモデルを創出するだけでなく、プロセスの自動化などを通じて既存業務の生産性を高めて、新たな領域に人員を再配置することも、広義のDXであると指摘した。
「20年ぐらい前に『e-ビジネス』という言葉が流行ったが、いまは誰も使っていない。おそらく10年後には、誰もDXとは言わなくなるだろう。今後はテクノロジーに支えられた変革が普通の事象になる」と、今井氏は展望を述べた。
根本的な課題を絞り込み、組織全体でやり切る
続いて桔梗原氏は、日経BP総研が実施した調査に基づいて、「36.5%の企業がDXに取り組んでいるが、その多くは成果が出ないと悩んでいる。どうすれば成果を出せるか、あるいはどうすると失敗するか」と尋ねた。
今井氏は、「変えなければいけないことはたくさんあるが、課題を構造化していくとポイントは2つか3つに絞り込める。これを組織全体でやり切ることが重要だ」と指摘した。
企業変革では、企業カルチャーや組織構成員のマインドセットを変えることも必要だといわれるが、これらは目にすることができないので、変化を捉えることが難しい。一方、わかりやすいのは、何をしたか、何をするか、という行動である。最大3つまでに行動の変化を絞って、マネジメント層のリーダーシップの下でやり切ることが大事だと今井氏は言う。
新規事業の成功確率について、今井氏はプロ野球の3割打者を引き合いに出し、「それぐらいの確率でヒットを打てれば十分だという感覚をもって、マネジメントと担当者の間で納得感のある合意ができていることが必要。そうすれば、データドリブン経営を実践することで新規事業の失敗の確率をある程度コントロールしつつ、意思決定のスピードを高めることもできるだろう」と話した。
桔梗原氏が「DXそのものが目的化していること」に懸念を示すと、今井氏は日本におけるERP(統合基幹業務システム)導入の歴史を振り返った。ERP導入の目的は、組織における業務の標準化とグローバル対応にあったはずだが、多くの日本企業は業務プロセスの変革を行うことなくERP導入を進めたため、欧米企業に比べてビジネスのパフォーマンスが上がらないという結果を招いてしまった。
「DXも同じで、Dにばかり注目して、デジタル化を進めても何も変革できない。業務プロセスや戦略の立て方、人材の配置まで変えない限り、成果は得られない。過去の経験に学び、日本企業の成長に貢献できるよう尽力したい」と今井氏は力を込めた。
セッションの最後には、オンラインで寄せられた視聴者からの質問にも答えた。
「富士通グループのコンサルティング会社として、いかに中立性を保つのか」。この問いについては、「クライアントファーストを標榜し、お客様の変革を実現するために必要なツールをフラットに提案していく。クライアントファーストは富士通の時田隆仁社長からも言われており、独立的な立場で富士通以外も含めたあらゆる選択肢の中から最適な提案を行う」とした。
また、「Ridgelinezの強みは何か」という質問に対しては、「実装をイメージしてDX Competency Consultantが提案するところは当社のユニークさであり、半年から1年の短期間でお客様が変化を実感できる仕組みを提案できる。また、アーキテクチャーデザインチームの中には、富士通グループ内外の技術をフラットに見て、整合性や結合性の良さをジャッジできるエンジニアがいて、実装のイメージを具体化していける点も強みだ」と話した。